Lucky Kilimanjaroが語る、ダンス音楽から学んだアプローチと「遊び」の姿勢

「ダンス・ミュージックは、自分の中で変化を取り入れるためのツール」

—そういう意味でいうと、さっきの、お客さんとのコミュニケーションを大事にするという話もそうだし、コミュニケーションは熊木さんのクリエイティブにおいて大事なことなのかもしれないですよね。

熊木:そうですね。何ごともコミュニケーションベースというか、あらゆることは他者がいないと成り立たないことばかりだと思うので、そこのコミュニケーションは当たり前に考えないといけない。僕が独りよがりになっても、僕は面白いかもしれないけど、最終的に僕が他の人とコミュニケーションが取れなくて、聴いてる人は楽しくなくなっちゃうかもしれない。どういうコミュニケーションを取るかは、常に考えるようにはしていますね。

ーメタルやハードロック、パンクやハードコアみたいな激情系の音楽が原体験の自分としては、ダンス・ミュージックが何で好きなんだろうと考えると、こういう音楽を聴くことで誰かとコミュニケーションしている感覚を得られるからなんだろうなって、いま話していて思いました。

熊木:ダンス・ミュージックはコミュニケーションのツールとして成り立っていると思いますし、同時に、自己を内省するというか、コミュニケーションのスタイルも含めて、自分の中で変化を取り入れるためのツールだと思っていて。そういう側面がダンス・ミュージックの好きなところだし、自分の音楽にも反映したいなと思っています。ダンス・ミュージックには、そういう良さが絶対あるって思いますし、そこを音楽でちゃんと見せていきたい。お客さんにもそういう風に考えてもらえたらいいなと思います。

—『TOUGH PLAY』の曲に関していうと、「ぜんぶあなたのもの」って曲が特に好きで。曲の始まりの感じと、曲が始まってから歌が入ってきて、歌がフロウしていく感じが気持ちよくて。単に静かめな曲とかではなくて、歌のフロウでちゃんとグルーヴしていって、じんわり熱くなっていく、その温度感が絶妙というか。

熊木:いわゆる2010年くらいのチルい、トロ・イ・モアとかウォッシュト・アウトとか、そういう音楽もすごく好きなんですけど、そういうチルウェイブ的な発想を、ヒップホップだったり、ブラック・ミュージックのファンク的な要素をサンプリングした解釈で混ぜ合わせることで、気持ち的にはちょっと静かなんだけど、エネルギーがちゃんとあるものを作れないかと作った楽曲です。





—聴いてる方は気持ちいいですけど、作るのは大変ですよね?

熊木:そうですね、静かすぎないように、そのポイントを探すのが大変でした。サウンドを足し引きしたり、自分のフロウを変えたりして。あとは歌詞ですね。一番自分のフィーリングに合うバランスを探して作りました。

—日本語は、ダンス・ミュージックのサウンドとの相性はどうなんですか?

熊木:比較的、発声方法がデジタルな言語だなと思っていて。日本語で育つとどうしてもデジタルな発声になっちゃいますし、発音がはっきりしているので、リズムとしてはすごく作りづらいんです。音自体が、エンベロープを持たないというか。「love」の場合、英語なら「らうぶ」ってなるんですけど、日本語だと「ら・ぶ」って切り離されちゃう。こういうところの調整は詩を選んだり、言い回しを考えたりしないと、トラックの表現したいリズムとずれちゃうなとは思っていて。そういう日本語のデジタル的な発声のよさは感じていて、あえてはっきりしているから気持ちよく聞こえるとも感じているので、そこはあくまで使い方かなって思っています。

—そこにさらに英語も入ってくるわけだから、選択肢は無限にありますよね。

熊木:そうなんです。あとカタカタで表現するような、和製英語的な部分をどう表現するかというところも含めて、意外と選択肢は多くて。そういう意味では綺麗な日本語で書こうとか、言葉を選ばないようにしていますね。例えば、固有名詞をなくそうとかもなく、言葉もリズムも意味も含めてジャストだったらなんでもいいって選ぶようにはしています。綺麗な日本語だとどうしてもハマらない場合があるんですよね。語尾だったりちょっとした助詞の使い方だったりがなんか合わないなぁ、みたいな。説明的になったり、リズムが悪くなったり変に間延びしたりして、そこはある種適当というか、思いついたらOKにしています。


Photo by Kana Tarumi

—リズムもそうですけど、発声の仕方にもこだわってるのかなって思うんですけど。

熊木:今作はやっぱり、技術的に上がったこともあって、自分の声で出すグルーヴに関しては、純粋に表現力が上がったなと思っています。なので一定の満足度はありますね。今回、自分の声をサンプリングする、エディットするみたいなことが多かったんですけど、それはやっぱり、自分がそういうエフェクティブなことができるようになったから発声できた部分があって。1曲目の「I’m NOT Dead」とかは、まさにそうですね。こういうふうに作れるようになったというか。自分で元のサンプリングも作るというアイデア自体はずっと前からあったんですけど、全然うまくいってなくて。でも今回、ドゥーワップから発声したら面白いんじゃないか、という発想があって、実現できてよかったです。この曲の、歌なのか歌じゃないのかというラインがすごく好きで。歌っていう感じでもない、でも歌なんだよな、みたいな。そのラインをいつも攻めたいと思っていたので、今回それが、すごく面白い感じでできました。そういう、僕の遊びごころみたいなものがアルバムのコンセプトとしてしっかり出せてるなと思ったので1曲目にしたし、すごく気に入ってますね。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE