ボブ・ディラン、世界を震撼させた『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』の革新性

 
ジャンルの限界に挑んだディラン

バーズによる整然としたフォーク・ロック・バージョンが、ラジオ受けするひとつのサブジャンルを確立した一方で、ディランはもっと大きな野望を抱いていた。アルバムのオープニングを飾る「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」は、チャック・ベリーの「トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス」のノリと40年代のスキャットからヒントを得た、とディラン自身も認めている。R&Bに皮肉めいた言葉の嵐を乗せたエレクトリック・ブルーズ曲で、ジャンルの限界ギリギリのラインだった(トニー・グローバーは「初のラップ曲」と表現している)。

しかし、これはまだ序の口だ。「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」と「ラヴ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット」は、かすかに揺らめく親密なラブソング。「ボブ・ディランの115番目の夢」と「オン・ザ・ロード・アゲイン」は、歌詞に絶妙なユーモアを交えたノリの良い曲だ。「アウトロー・ブルース」は、自伝的な要素も含んだストレートなブルーズ曲。「彼は度胸が据わった人間だった」と、アルバムでギターを弾いたケニー・ランキンは振り返る。「ディランがエレクトリックギターを手にしたというだけでも大事件だったんだからね」

レコーディング最終日、ディランとミュージシャンは全員が集中していた。彼らはまず、怒りに満ちたプロテスト・ロック曲の「マギーズ・ファーム」を1テイクで片付けた。さらに「エデンの門」はディランがソロで、同じく1テイクで仕上げた。「エデンの門」は不可解だが、素晴らしい曲だ。「何のことを歌っているかさえ分からない」とグローバーは言う。「それでもこの曲から伝わってくる感じが好きだ」




さらにディランは、「ミスター・タンブリン・マン」、「イッツ・オールライト・マ」、「イッツ・オール・オーバー・ナウ、ベイビー・ブルー」のファイナル・テイクをレコーディングした。「ベイビー・ブルー」は史上最高級の別れの曲で、ディランの作品の中でも最も美しい楽曲の部類に入る。恋人に対する冷たい別れの言葉であると同時に、ディランの昔からのコアなファンへ向けたメッセージでもある。アコースティックギターとハーモニカを中心としたアコースティックな曲に、ビル・リーがエレクトリックベースで美しいカウンターメロディーを奏でている。ただし根っこには、ロックンロールのハートが込められていた。「長いあいだ頭の中で温めていた曲だ。曲を書いている時には、ジーン・ヴィンセントの曲を思い起こしていた。もちろん俺が歌うのは、別のベイビー・ブルーだけどね」とディランは言う。グレイトフル・デッド、ヴァン・モリソン、ブライアン・フェリーなど数々のミュージシャンにカバーされた「ベイビー・ブルー」は、ディランの名曲のひとつとなった。

数十年後、自伝『Chronicles』の中でディランは、「エデンの門」をはじめとする一連の作品を書いた時期を振り返っている。「楽曲は、それぞれ違った状況で書かれている。同じ状況というのは、二度と作れない。まるっきり同じ状況はね。だから曲を作った時の状態には、二度と到達できない。再現するには、精神状態を支配するパワーが必要だ。俺の場合は、曲を仕上げる時に一度だけ力を発揮できた。そう。一度で十分なのさ」

From Rolling Stone US.




LP 
『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』 
2022年5月25日発売 ¥4,180(税込)
購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/BIABHLP

1] ソニーミュージックグループ自社一貫生産アナログ・レコード、180g重量盤、完全生産限定盤
[2] 2022年Sony Music Studios Tokyoにてカッティング
[3] 新対訳&訳者ノート(佐藤良明)付
[4] 日本初発売時の解説(中村とうよう、ナット・ヘントフ)、2013年解説(クリントン・ヘイリン)、補足(菅野ヘッケル)収録
[5] ジャケット外装(A式ジャケットを採用)、日本初発売時のLP帯再現

祝・デビュー60周年アナログ・レコードの詳細:https://www.110107.com/dylan_60/

Translated by Smokva Tokyo

 
 
 
 

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