サマーソニック総括 「失われた時間」からの復活、新しい時代へのメッセージ

The 1975(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

 
8月20~21日にかけて開催され、多くの反響を呼んだサマーソニック。音楽ライター・ノイ村が東京公演2日間の模様を振り返る。

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今年の2月15日、サマーソニックの第1弾アーティストの発表と併せて掲載されたクリエイティブマン代表の清水直樹氏のコメントには、次のような言葉があった。

「失われた時間は戻って来ませんが、この夏その埋め合わせをするチャンスを下さい」

失われた時間とは、言わずもがなだが、前回のサマソニが開催された2019年から現在に至るまでの約3年間を指す。その詳細についてはスマッシュ×クリエイティブマンの対談記事に詳しいが、正解の見えない状況において、何とか「来日公演の復活」を目指そうとしたプロモーターの方々の尽力が無ければ、連日のように新たな来日公演がアナウンスされ、フジロックとサマソニに追加される海外アーティストを楽しみに待つという今年の状況を迎えることは無かった。

2020年の開催延期、そして中止を経て、昨年開催されたスーパーソニックは、ZEDDやスティーヴ・アオキといった著名な海外DJ/プロデューサーをヘッドライナーに迎えた久しぶりの洋楽フェスティバルであり、復活の狼煙でもあった。そして、The 1975とポスト・マローンを筆頭に、「失われたフェスティバル」となってしまった2020年のスーパーソニックのラインナップを踏襲して帰ってきた今年のサマーソニックは、もはや単なる「埋め合わせ」ではなく、フジロックの洋楽ラインナップの復活と併せて、この国における洋楽文化の復興を示す祝祭のように感じられた。

そして、遂に訪れた当日。約3年ぶりに訪れたサマソニは楽しく、そして美しい瞬間に満ちたものであると同時に、「この時間の中で、私たちは何を失っていたのか」を思い出す時間でもあった。



1日目・8月20日(土)

東京会場に到着してまず最初に実感したのは、その客層とスタイルの幅広さだ。老若男女・国内外を問わないのは大前提とした上で、バンドTシャツとタオルを身に纏った、いわゆる「フェスファッション」のような身軽で動きやすい服装の人々もいれば、街中を歩く時と同様と思わしきファッションでカジュアルに過ごしている人々もいる。ステージに出演するセレブリティと負けず劣らずのハイファッションで見事に決めている人々だって珍しくはない。邦ロックの熱狂に身を投じようとする人もいれば、憧れの海外アーティストに会うために全力で自らをドレスアップしてきた人もいるし、落ち着いた音楽を聞きながらリラックスして過ごそうという人もいる。そのどれもが「サマソニの楽しみ方」であり、アクセスの容易さと過ごしやすさ、世界屈指とも言えるラインナップの幅広さを兼ね備えたサマソニだからこそ実現出来るであろうこの景色に、実際にライブを見る前から「サマソニが帰ってきた」という感情が湧き上がってくる。

国内外の様々なポップ・カルチャーと、それを愛する様々な人々が一つの場所に合流する交差点。それこそがサマーソニックであり、感慨に浸るとともに、長い間、私たちは互いに交わることの無い日々を過ごしていたのかもしれないと思ってしまう。


マネスキン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


マネスキン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

そんな多種多様なオーディエンスの注目を一身に集めたのは、何と言っても初登場にして最大規模ステージであるMARINE STAGEへの出演となったイタリア発の若手ロックバンド、マネスキンだろう。昨年、ロックバンドとして異例中の異例とも呼べるほどの世界的大ブレイクを果たしたその勢いは、この日本にもしっかりと届いており、開演前からその客席は見事に埋まっていた。その期待に応えるかのように、バンド側も1曲目から代表曲の「ZITTI E BUONI」を惜しげもなく投下。会場中に響き渡る爆音のギターリフが、一瞬で観客の期待を凄まじい熱狂へと変えてしまう。マネスキンの音楽の魅力と言えば、ロックの持つダンス・ミュージックとしての快楽性や旨味を追求し、そのハイライトだけを詰め込んでしまったかのような貪欲で本能的な音楽性だが、そんな楽曲の数々が凄まじい音量で、荒々しく、それでいて快楽のポイントは的確に抑えた上で連発されるのだから、会場はみるみるうちに熱狂の渦へと雪崩込んでいく。途中、機材トラブルに見舞われる場面もあったものの、そのグルーヴは途絶えることなく会場中を支配し続け、大ヒット曲である「I WANNA BE YOUR SLAVE」によって、この狂乱のパーティーは見事な大団円を迎えた。

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ビーバドゥービー(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ビーバドゥービー(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

一方、自然体のままで、リラックスしながらMARINE STAGEを魅了したのは、フィリピン出身、ロンドン育ちのシンガーソングライター、ビーバドゥービーだ。自身が多大な影響を受けたという90年代のオルタナティブ・ロック由来のヒリヒリとしたバンド演奏と、音楽制作のルーツでもあるベッドルーム・ポップを織り交ぜながら、その透明感に満ちた美しい歌声をスタジアム全体に響かせていく。特に「Last Day on Earth」ではストーン・ローゼズを彷彿とさせるサイケデリック・ポップな音像の中で、可愛らしいアライグマのぬいぐるみを背負いながら伸び伸びとしたパフォーマンスを披露し、会場全体のムードをより自由で緩やかなものへと導いてくれた。


ケイシー・マスグレイヴス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ケイシー・マスグレイヴス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

シンガーソングライターと言えば、この日は現代のメインストリームを代表する存在となったケイシー・マスグレイヴスもSONIC STAGEに登場。そのソングライティングの素晴らしさによって、カントリー・ミュージックという枠を超えて愛されている彼女だが、この日は誕生日前日ということもあってステージ全体がお祝いムード。ポジティブな雰囲気で満ちた空間の中で、ゆったりとした余裕から生まれる包容力と共に、「Golden Hour」などの至高のポップ・ソング群をじっくりと聴かせてくれた。

 
 
 
 

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