オジー・オズボーン「地獄からの生還」 過去・現在・未来を大いに語る

 
『オズボーンズ』を振り返る

「この部屋が暑いのか、それとも......ああクソ」オジーは言う。「エアコンの普及では、イギリスはアメリカに全然及ばないよな」

クラリッジス・ホテルのスイートの階下で2時間話してから、我々は階上のファミリー・ルームに上がっていく。オジーは昼寝をするつもりだ。荷物を最小限に留めているため、これが彼の部屋だと言われなければそう気付くことはないだろう。彼のトラベル哲学はこんなものだ:「カバンを持って飛行機に乗るだけ」
ただ幸い、彼にはシャロンやケリーがいるし、オズボーン一家のために働くスタッフがいる。その中には10年以上やっている者もおり、他の仕事に就く気はないと話してくれた。

ロンドンの上品なメイフェア地区(バッキンガム宮殿は徒歩圏にある)を臨む出窓の前で、裸足のオジーは横になり、大きく報道されたイギリスの猛暑について愚痴をこぼす。
「みんな環境の変化を本気に捉えていないんだ」彼は不満そうに言う。「窓の外を見てみろよ。何もかもがチリチリだ」

オジーの政治思想はリベラルなものだ。彼はドナルド・トランプを「A.H……アドルフ・ヒトラー」と例えるが、大統領任期中に地球を爆破させるのではないかと不安だったという。前日、バーミンガムでオジーとトニーが再会を果たしている頃、FBIはトランプのフロリダにある邸宅“マール・ア・ラーゴ”の家宅捜索をしており、オジーは楽しそうにニュースを見ていた。
彼はまた、1月6日の米国会議事堂占拠事件の主犯が起訴されたという報道についても嬉しそうだ。
「これから判決を出すところだ」彼は言う。「トランプもブチ込めばいいのにな」

オジーとシャロンは来年、ロンドン郊外にある350エーカーの敷地の邸宅に戻るつもりだ。オジーはアメリカを去ることについて、度重なる銃乱射事件を恐れていることを理由に挙げているが、筆者にはより理に適った理由を語ってくれた。それはまずイギリスに住む家族のそばで暮らしたいというもの、そしてアメリカでコロナ禍後の経済再建のために実施されるであろう増税を回避するためだった。

我々が話しているところに、ケリーが挨拶しに入ってきた。彼女もまたイギリスの猛暑にうんざりしているが、それは彼女がボーイフレンドでスリップノットのメンバーであるシド・ウィルソンとの赤ちゃんを身籠もっているせいもあるだろう(彼らはOZZFESTで出会った)。彼女が部屋を去ると、オジーは誇りに満ちた表情でまだ生まれていない赤ちゃんの性別を教えてくれた。それを聞いたケリーに隣の部屋から「パパ!」と叫ばれて、オジーがしゅんとして「ゴメン……」と謝る、まるで『オズボーンズ』の1シーンのような微笑ましい光景も繰り広げられた。彼女が聞こえない距離まで離れると、オジーは筆者に「もう嬉しくてたまらないよ。とても健康そうだしね」


オジー、シャロン、ケリー、ジャック(Photo by MICHAEL YARISH/MTV/GETTY IMAGES)

今年の3月、『オズボーンズ』が始まってから20年の月日が経った。このリアリティTV番組は3年のあいだオジーの家族の生活を細部まで露わにしたが、その代償として彼らはスーパースターとなった。
オジーはこの番組がいかにビッグになったかに気付いた瞬間のことを思い出す。
「405号線(訳注:カリフォルニアを南北に走る高速道路)を走っているとき、スタッフに『トイレに行きたい。どこかに寄ってくれ』って言ったんだ。それで大きなマクドナルドに停めてもらった。トイレには誰もいなかった。用を足して外に出たら、店内にいた全員が駐車場で俺の車を取り囲んでいたんだ」

当時オジーは「TVタレントの座を手に入れた代わりにミュージシャンのキャリアを犠牲にしたかも知れない」と考えたが、時間の経過によって、異なった風に捉えるようになった。「あの3年間は本当にイカレていたよ」彼は続ける。「子供たちはみんな酒を飲んで、アレコレをキメていた。俺もまた飲むようになった。毎日24時間カメラクルーが自宅にいてみろよ。頭がおかしくなる気持ち、判るだろ?」

「カーダシアン家の連中には脱帽するよ。俺には理解出来ないけどな。顔面の皮が分厚いんだろう、俺だったら発狂してるよ。もう15年だか何だかやってるんだろ?」

オジーの不安をよそに、英BBCは9月初め、オジーとシャロンがバッキンガムシャーの住居に落ち着き次第『オズボーンズ』をリブートすると発表。もうすぐ生まれるケリーの赤ちゃんやオジーの新しいツアーなどさまざまな題材に迫ると告知している。
(オジーと違って、シャロンはテレビ出演が好きだったりする。彼女は『Xファクター』や『アメリカズ・ゴット・タレント』の審査員になったことがあるし、2010年から『ザ・トーク』のホストの1人に起用されている。それから11シーズンにわたって、彼女は時事問題を鋭く切ったり、論争で悪役になってきたが昨年、友人であるイギリス人ジャーナリストのピアース・モーガンがメーガン妃について差別的な発言をしたのを弁護、同じく共同ホストであるシェリル・アンダーウッドと口論になり、番組を降板している。彼女は後にTwitterで「私は人種差別、性差別、いじめを許容しないことを主張します」と声明を出した。現在彼女はイギリスの“トークTV”ネットワークで、同じく『ザ・トーク』と題されたチャット番組のホストを務めている)

『オズボーンズ』を振り返って、オジーは自分の子供たちがテレビ出演で浴びた注目をうまくこなしたことを誇りにしている。
ジャックはTVショーのホストを務める一方で、オジーとシャロンのロマンスを描いたバイオピックのプロデュースも手がけている(オジーは「くそジョニー・デップなんかじゃなく」無名の俳優に自分を演じて欲しがっている)。ケリーは数年間TV番組『ファッション・ポリス』のコメンテイターだったし、『ザ・マスクド・シンガー』にも出演した。長女のエイミーは『オズボーンズ』に出ないことを選択したが、ARO名義でシンセ・ウェイヴの音楽作品を発表している。

オジーは長男ルイスが「アイアン・マンをやっている」ことに特に驚嘆している。曲の「Iron Man」ではなくスポーツの方であることを筆者が念押しすると、こう説明してくれた。「自転車に15マイル乗ったら10マイルだか泳いで、2マイル走ったりするんだ。最近やったやつは14時間近くかかったんだ。言ってやったよ。『なあルイス、その手間を省くために自動車が発明されたんだろ?』ってね」

シャロンは今でもオジーの道しるべとなる星だ。オジーが想像するだけで「頭がおかしくなる」という心の闇は、シャロンが自分より前に死んでしまうということだ。ソファで体勢を直しながら、彼は「それだけは絶対にダメだ」と言う。「彼女がいないと生きていけない。俺のすべてだよ。出来ることならば一緒に寝そべって死ねたらいいけど、物事そううまく行かないからな。どう乗り越えればいいか判らないよ」

Translated by Tomoyuki Yamazaki

 
 
 
 

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