オジー・オズボーン「地獄からの生還」 過去・現在・未来を大いに語る

 
最新アルバム、テイラー・ホーキンスとの思い出

オジーはニュー・アルバムについて尋常でないほど興奮していることを認めている。マイリー・サイラスやジャスティン・ビーバーなどを手がけてきた31歳のプロデューサー、アンドリュー・ワットがお気に入りのバンドのひとつであるヤードバーズのギタリストだったエリック・クラプトンとジェフ・ベックに参加依頼をすることを提案したとき、“暗黒の貴公子”は鼻で笑った。
「『アンドリュー、俺が発狂したと思われるだろ』」と言ったあと、彼は付け加える。「実際そうなんだけどさ」2人とも参加を承諾してくれたことに、彼は自分の幸運を信じられなかった。

「オジーはファンみたく振る舞うのよ」シャロンは言う。「オジーはエリック・クラプトンとジェフ・ベックのファンだから、『ワー、あの人たちと一緒にやれるんだ』って感じだった」

数年前、オジーとザック・ワイルドはエルトン・ジョンのライブを見に行っている。「ヒット曲に次ぐヒット曲の連続だったんだ」ザックは語る。「俺とオジーはライブを見て、『Rocket Man』や『Don’t Let the Sun Go Down on Me』(僕の瞳に小さな太陽)などが始まるとハイタッチをしたりフィストバンプをしていたよ。2人とも『凄いなあ』って感じだった。俺が『あなただって悪くはないぜ』と言ったら、ただ笑っていた。オジーは自分が彼らと同格だと考えていないんだ」

『Patient Number 9』に参加している他のゲストはトニー・アイオミ、パール・ジャムのマイク・マクレディ、メタリカのロバート・トゥルヒーヨなどで、ガンズ&ローゼズのダフ・マッケイガンがベースを弾き、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミスとフー・ファイターズのテイラー・ホーキンスがドラムスを叩いている。

オジーに影響を与え、共演して、影響を受けてきたミュージシャン達が集結した、彼にとっての“私の履歴書”的なアルバムであり、錚々たるスター達が名を連ねているのに拘わらず、本作はオジー・オズボーンの作品以外の何物でもない。

『Patient Number 9』においてシャロンがアンドリュー・ワットに付けた唯一の注文は、前作『Ordinary Man』よりヘヴィなサウンドにすることだった。そこで登場するのがトニー・アイオミだ。彼がギターを弾いた2曲のひとつ「Degradation Rules」について訊くと、オジーは「この歌詞が何についてか判る?」と訊き返してきて、世界共通のシコシコの手つきをする。テイラー・ホーキンスはアルバムでドラムを叩くのに加えて、オジーによると歌詞でも多大な貢献をしているという。「“RedTube最高”って一節を書いたのは彼だよ。あれ? BlueTubeだっけ? RedTubeだっけ?」

「オジーはRedTubeが何かも知らなかったんだ」アンドリュー・ワットはアダルト動画配信サイトについて話す。「通話を終了すると、テイラーは『やった!』と飛び上がっていたよ。後になってRedTubeが何か教えたんだ。涙が出るほど笑ったね」



冗談はさておき、3月にテイラーが突然亡くなったことはオジーにとってショックだった。「本当に悲しいよ。すごくナイスな奴だったのに」

ソファに寝そべって、オジーは「Degradation Rules」の一節を口ずさむ。「曲の構成が最高なんだ」彼は言う。「『13』(ブラック・サバスのアルバム)にぴったりだったと思う」

“最高のオジー・ソング”に必要な要素とは何だろうか?「ダークで、ヒネリがあって、ビートルズ風で」アンドリューは答える。「ヘヴィで邪悪なコード進行かな」

「俺にとって、オジーの曲のレシピにおいて重要なのは強力でソウルフルなボーカル・メロディ、それから美しくダークなコード進行かな。『Diary of a Madman』みたいなね」ロバート・トゥルヒーヨは言う。「オジーやサバスの名曲にはパワフルなリフ、そしてリズム・セクションによるビートとグルーヴがある。オジーはベースが大好きなんだ。よく『ロブ、お前は最高の親友だよ』と言っていた」

アンドリューが集めたミュージシャン達によって、新作のサウンドは『Ordinary Man』よりもハードにロックしながら、オジーの愛するメロディが貫かれた作品だ。
タイトル曲「Patient Number 9」は複雑に入り組んだゴシック・ロックで、正気を失うというオジーには馴染みのあるテーマが歌われており、ジェフ・ベックがジャジーで表現力豊かなギター・ソロを聴かせる。「Parasite」ではオジーの奇妙なユーモアが発揮され(スポークンワードで「虫が好きなんだ」と語られる)、ザックのギター・ソロが光る。

攻め込んでくる「Immortal」でギターをプレイしているマイク・マクレディは90年代初頭、オジーのようなメインストリーム・メタルをラジオから放逐したパール・ジャムの一員だが、この曲では抽象的なプレイによってパンキッシュなエッジをもたらしている。ちなみにギター・リフを思いついたのはオジーで、アンドリューに電話をして留守電に歌ったアイディアを基にしている。




少しばかり問題があった唯一のアーティストはエリック・クラプトンだった。彼はバラード「One of Those Days」で味わい深くブルージーなメロディを弾いているが、アンドリューによるとこの曲調はエリックがワウを使うことを前提に彼とオジーが書いたものだった。「こんな日、キリストを信じられなくなる」というコーラスは、オジーがニュースで見た学校での銃乱射事件についてアンドリューと話しているときに生まれたもので、人間性についての意思表明だった。「エリックに送ったら、『歌詞がどうもピンと来ない』って言われたんだ」オジーは思い出す。「それで変えてみようとしたんだ。『こんな日、それをどうしても信じられなくなる』とかね。でも歌詞を書くという行為は、ある瞬間を捉えるということなんだ」結局エリックは一歩退いて、元のままの歌詞が使われることになった(本件についてエリックは代理人を通じてノーコメントを伝えてきた)。

作業のスピードを落とす要因となったのはエリック・クラプトンのみではなかった。誰もがオジーの健康状態を気にかけねばならなかった。それはパンデミック下ではなおさらで、「オジーが外出するのは安全ではなかった」とアンドリューは語っている。「アルバムを作るあいだ彼が安全であるために、検査に何十万ドルも使ったよ」

Translated by Tomoyuki Yamazaki

 
 
 
 

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