礼賛ロングインタビュー サーヤ、川谷絵音と猛者たちが化学反応を語り合う

礼賛では「負の感情」が消化できる

―「愚弄」が曲作りのきっかけになったという話がありましたが、他に「この曲ができてバンドの方向性が見えた」という曲を挙げてもらえますか?

サーヤ:最初はとにかく「しがみつく」って感じで、「嫌われないようにしなきゃ」と思ってました(笑)。絵音さんに「つかねえな」と思われないように、みんなに「なめてんな」と思われないように、「本気でやってます」っていうのをちゃんと伝えたくて。

課長:全然、なめてるなんて一瞬も思わなかった。

サーヤ:最初に手を出したのが芸人なので、それから音楽をやり出すと「芸人の音楽」みたいな感じになって、それってすごい保険かけられるし、めっちゃずるいし、そこの分野の人たちにめちゃくちゃ失礼だなと思うので、そういう逃げ方だけはしないようにと思って。だから、名義も絶対変えようと思ったし、とにかく最初にそれを示さなきゃと思ってました。

―リスペクトがあるからこそ、プレッシャーも大きかったと。

サーヤ:自分みたいな音楽経験ゼロの人間からすると、最初から揃い過ぎてるというか、財閥の子供みたいな感じじゃないですか(笑)。今の自分の環境は「幼稚舎入って、そのままエスカレーターで大学」みたいなことで、「成功ルートじゃん」って言われる部分もあると思うからこそ、そこに胡坐をかくことなく、作詞作曲にちゃんと向き合おうって、最初はそれしか考えてなかったですね。

―最初にデモバージョンを配信して、その後にメジャーデビューという手順を踏んだのも、サーヤさんの想いを汲んでのことだったのでしょうか?

川谷:いや、それはそこまで考えてたわけじゃないんですけど、でもやっぱりサーヤちゃんのこの才能をちゃんと知ってもらいたくて、「芸人さんがやってるバンド」みたいには思われたくなかったんですよね。僕もバンドをいろいろやってるから、「またなんか始めたよ」みたいに思われたくなかったし、ちゃんと段階を踏んで、しっかり広げていこうっていうのはありました。



―そうやって着実に積み重ねてきた成果が今回のアルバムだと言えると思うんですけど、1曲目の「TRUMAN」って比較的最近できた曲ですか?

サーヤ:一番最後にできた曲です。

―「ヒップホップのバンド」にしては音数の多い曲もたくさん入ってる中で、この曲が一番音数少なめで、その分サーヤさんの歌とラップが前に出ていて、すごくいいなと思いました。

サーヤ:うれしい! この曲は自分のバイブルになってる『トゥルーマン・ショー』をテーマに一曲絶対作りたくて、それで作った曲なんです。ずっと監視をされる、誰かに操られるっていう業界で、ここから何十年やっていく覚悟というか、「ちゃんとしなきゃ」と思ったタイミングがあったんですよね。何から何まで出されるし、制約とかルールが多い環境でやっていくんだなっていうことにぶち当たったときに、「この思いを一番好きな映画になぞらえて曲にしたい」と思ったんです。なので、歌詞の内容も抽象的じゃなくて、「これはこのことを言ってる」って、全部自分で把握できるような内容で、そういう曲を書けたのがうれしかったし、今のところ一番好きな曲です。



―“あなたの価値観で味わって 端から端まで”というラインが端的に表しているというか、途中でも話していただいたように、周りに対してどうこうではなくて、いかに自分が楽しむかが重要だっていう、サーヤさんの人生観が表れているように感じました。

サーヤ:ありがとうございます。今は「感動ポルノ」みたいなのが多い気がして、特に私は「代理店に勤めて芸人もやってる」っていう肩書きがバーッと走っちゃったから、「これでずっと行くのはしんどいな」と思って。それが嫌で大阪進出したりとかもしたんですけど、結局見られ方が決められていって、それで本当にやりたいお笑いができなくなったりとか、そういうことが往々にしてあるなっていうのを思って出てきた歌詞でもあります。

―そういったある種のネガティビティみたいなものも、音楽に乗せることで解放されたり、消化されたりする。そんな雰囲気もアルバム全体から感じました。

サーヤ:これまでエピソードトークとかネタに行き切らない負の感情が煮詰まりすぎて、誰も笑えないようなものがたまってたりもしてたんですけど、今はそれを全部礼賛で消化できてるから、すごくありがたいです。フードロスみたいな感じで(笑)、違う商品になるっていうか。

課長:すげえ、処理場になってるんだ(笑)。

サーヤ:言い方がちょっと(笑)。でもそれはホントに今年(2022年)一年めちゃくちゃ助かりました。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE