ピンク・フロイド『狂気』50周年 制作背景とバンドの内情を生々しく語った秘蔵インタビュー

 
ひとつの曲のようなアルバム

ウォーターズは『狂気』について「よどみない(sort of flawless)」と表現しており、確かにそれは正しくもある。アルバムの制作には、いくつもの幸運なアクシデントがあった。「虚空のスキャット」におけるセッション・シンガー、クレア・トリーの見事な即興ボーカルもそうだし、エンジニアのアラン・パーソンズがたまたま膨大な数に上る時計の音のテープを所有していたこともそうだが、『狂気』にはロック・アルバムで滅多に聴くことの出来ない、宝石のような完璧さが備わっている。本作はプレイヤーにシャッフル機能が付く前の時代の究極の遺産であり、まるでひとつの曲であるかのような流れのあるアルバムだ。

「『サージェント・ペパーズ〜』や『ペット・サウンズ』には、ありもしないコンセプトを投影することが可能だ」と語るのは、このアルバムの大ファンであるスマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンだ。「『狂気』は真のコンセプト・アルバムだよ。始まり、真ん中、終わりという流れとテーマがある。目標地点に向かっていき、意味を成しているんだ。あれほど完璧な作品を意図して作ろうとしても無理だよ。意味のある偶発性が必要なんだ」



バンドはアルバムの音楽を聴くにあたって、集中した状態で、出来れば部屋を真っ暗にして、“日常とは異なる意識状態”で臨むことを希望していた。

「集中力が持続する時間は、昔と今では違うんだよ」ギルモアは語る。「友達のアパートや家に行って、部屋でくつろいで良いステレオでアルバムを通して聴く。それからしばらく語らって、また別のアルバムをかける……そんなこと、今でもやっている人はいるかい?」

このアルバムの流れるような展開は、彼らの同期であるプログレッシブ・ロックのグループのいかなる作品よりも、『アビー・ロード』のB面に通じるものがある。

「正直なところ、ザ・ビートルズと張り合うなんておこがましいと思っていたんだ」ウォーターズは言う。「『サージェント・ペパーズ〜』もよどみのないアルバムだ。彼らがハードルを上げたことで、さらに俺たちの気合いが入ったのかもね」


『狂気』50周年記念ボックス・セットに合わせて公開されたドキュメンタリー映像(日本語字幕付き)

『狂気』の全10曲は、16トラックのマスター・テープの同じリールに録音されたが、それは異例の試みだった。

「ひとつの曲から次の曲へと流れ込んでいくアプローチは、アルバム全体のフィーリングにとって非常に重要だったんだ」と語るのは、このアルバムで決定的な評価を得たエンジニアのアラン・パーソンズである。「それぞれの曲をミックス作業で繋げるのでなく、レコーディングの過程で流れを生み出そうとしたよ」

Translated by Tomoyuki Yamazaki

 
 
 
 

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