ピンク・フロイド『狂気』50周年 制作背景とバンドの内情を生々しく語った秘蔵インタビュー

 
デイヴとロジャーズの複雑な関係

ウォーターズの『ザ・ウォール』ツアーは昨年(2010年)、北米で2番目の収益を稼ぎ出したツアーだった。ピンク・フロイドのリイシュー・プログラムが進行しているあいだ、ウォーターズは自分のツアーで忙しく、作品に関する細かい質問は軽くあしらう。「何が起こっているかは、デイヴとニックの方がよく知っていると思うよ」と彼は語る。木のフローリングを施されたオフィスで、きれいに磨かれたガラスの会議用テーブルを前にして座っているウォーターズは、かつてのバンド仲間たちについて話すことは避けている。彼は私に昨年こう話していた。「もう他人を傷つけたくないんだよ」

ギルモアが「ウォーターズは滅多にボーカル・メロディを書くことがなかった」と語っていたことを告げると、ウォーターズは一瞬奇妙な表情を浮かべ、人間の記憶がいかにあてにならないものかと話す。彼はコラボレーションの重要性について語っている。「リックがいなくても、俺がいなくても、デイヴがいなくても、何かが起こったかも知れない」彼はうっかりメイスンの名前を挙げるのを忘れたのかも知れない。「でもその何かは、実際我々に起こったこととは異なったものとなるだろうね」

実際のところ、ギルモアとウォーターズが親しい友人だったことはなく、ギルモアがバンドに加入するまでほとんどお互いのことを知らなかった。ただウォーターズは、彼と初めて会った日の喜びを覚えている。

「デイヴは素晴らしいシンガーで最高のギタリストだったんだ」彼は話す。「それ以上の何を望むんだい? しかも彼は良い奴で、とても楽しく、ジョークを飛ばしたりしていたよ。決して『凄いギタリストでビューティフルなシンガーだけど、変な人だよな……』って感じではなかった」


2005年のLIVE 8で共演したデヴィッド・ギルモアとロジャー・ウォーターズ(Photo by Dave Hogan/Live 8 via Getty Images)

外部から見ると、ウォーターズがバンドを去ってから、いまは彼とギルモアの関係は最も良好であるように見える。

「君はそう思うかも知れないけどね」ギルモアは口を閉じて、しばし沈黙する。「そう言うことも出来るかもね。でも連絡を取らなければ、関係はほとんど存在しないんだ。数カ月前、ロジャーの『ザ・ウォール』ショーで1回プレイしたけど、それから彼とはまったく連絡をしていないよ」

その後、ギルモアの息子チャーリーはイギリスの大学の学費値上げに反対する暴力的なデモに参加したことで、16カ月の禁固刑となっている。ウォーターズがギルモアに手を差し伸べるには良い機会だっただろう。それから数カ月前、ウォーターズとギルモアはチャリティのアコースティック・ライブで「あなたがここにいてほしい」に加えて3曲をプレイしたが、ギルモアによると、その間コミュニケーションを取っていなかったという。「決して仲が悪いわけではない。ただ日々の生活において、そうしないだけなんだよ」



ボブ・ゲルドフが2005年、“LIVE 8”でのピンク・フロイド再結成を打診したとき、彼はすぐさま口論を始めた。

「リハーサルでの空気はすごく張り詰めたものだった」ギルモアは話す。「ロジャーが演奏したい曲目のメモを書きつけてきたけど、チャリティ・イベントにはまったく相応しくないものだったんだ。『教育なんて必要ない』とか歌うのは、あまりに場違いだった。我々は柔らかい口調で、ロジャーが我々のバンドのゲストだということを言わねばならなかった。リック、ニック、俺はずっとピンク・フロイドを続けてきて、ロジャーは一時的にゲストとして復帰したんだ。結局俺がセットリストを書いて、その曲目をプレイしたよ」

「ロジャーはその後あちこちでたっぷり時間をかけて、再結成は一度限りで、もう二度とやらないと話していたね」ギルモアは続ける。「それで自分の意思も固まったんだ。大勢の人がそういうの(再結成のこと)を望むのは理解出来るけど、俺は自己中心的な人間だし、これから下降線を描くにしても、自分のやりたいようにしたいと思った。そして再結成はその中に入らないってね」

昨年(※2010年)、ウォーターズは私にもう一度チャリティ・イベントでの再結成の可能性もあり、メイスンもそれを希望していると語った(彼は「ボブ・ゲルドフよりも重要な人間から要請されるんじゃなきゃね。そういう人がいれば」と主張していた)。

一方、ギルモアにはその興味がないらしい。ただ、彼にとって『ザ・ウォール』ツアーにゲスト参加し、壁の上で「コンフォタブリー・ナム」を歌ったのは楽しい経験だったようだ。彼はウォーターズがチャリティ・ライブに出演することと引き換えに、この日ステージに上がることに合意している。

「(当日のライブについて)あまりコメントしたくないんだけど、会場に着いて『おいおい、何度かリハーサルさせて欲しかったな』とは思ったね」ギルモアは少しばかり悪意を込めた笑顔を浮かべる。「そうしたらもっと良い演奏になっただろう。でもロジャー達のプレイはすごく良かったよ」

『ザ・ウォール』のライブ・パフォーマンスを見て、彼はこう付け加えている。「俺の描いた絵の具があちこちにくっついているのに気付いたよ。『俺は凄いものの一部だった。ロジャーもそうだった』と思った。いろんな素晴らしいことを一緒にやったんだ」

「チャリティ・ライブも素晴らしい一夜だったよ」ギルモアは語る。「ロジャーはあらゆる録音・録画機材の持ち込みを禁止したんだ。でも俺は自分のカメラを持ってきて、身内に『最初にこのボタンを押して、終わったらもう一度押してくれ』と頼んだ。後でロジャーに撮影したと言ったら「素晴らしい!」だってさ。『まともなカメラを持ち込ませてくれたら、もっと良い動画を撮れたのにな!』とは言わなかったよ。でも本当に楽しかったね。数時間一緒に飲んで、けっこう酔っ払ったんだ。そうして彼は彼の、俺は俺の道を進んでいったのさ」



ギルモアの考えはこのようなものだ。

「全員がエゴの問題を抱えた4人によるコラボレーションが、素晴らしい結果を生んだんだ。それぞれが思い描く自分像と実態には少しずつ違いがあった」

ただ、ウォーターズはその意見には同意していない。

「他のバンドと較べて、エゴの問題はそれ以上でもそれ以下でもないと思うよ」

エゴと無関係ではなさそうだが、ロジャーは2002年のソロ曲「フリッカーリング・フレイム」の歌詞を諳んじてみせる。「"喝采を求めて神経結合部が静止し、エゴが骨の端を手放すとき/かけがえのない愛に代わりに焦点を当てて/我は自由を手にする”。最近の俺は、こんな心境なのかもね」

確かにそうかも知れない。ウォーターズは今回の取材で『狂気』と『炎(あなたがここにいてほしい)』におけるギルモアのボーカルについて語ったとき、「葉巻はいかが」でゲストとしてロイ・ハーパーが歌っていることについて言及している。

「唯一悔やんでいるのは、あの曲でロイ・ハーパーに歌わせたことなんだ」ウォーターズは言う。「俺が歌うことも出来たけど、自分自身を抑制してしまった。心の奥底では少し傷ついているけど、『くたばりやがれ。お前らがどう思おうと、俺が歌うんだ』と主張するリスクを冒す度胸がなかった。それは後悔しているね」そして彼は微笑む。「でも、あまり後悔することはないよ」

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From Rolling Stone US.





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Translated by Tomoyuki Yamazaki

 
 
 
 

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