中島みゆき『世界が違って見える日』、プロデューサー瀬尾一三と紐解く

心月 / 中島みゆき

田家:アルバムの8曲目「心月」。心の月と書いて「つき」。

瀬尾:実は「噤」と「心月」は、音楽が続いてるんですよ。切れないように作ってくれて言われたので。この2曲は必ずつけるので「噤」が先で、その後に「心月」が来るって言われて。キーも一緒になってるので、この辺のところはある意味、三部作的になっている。ファンタジー系というか、ファンタジーという名を借りた現実ですけど。

田家:「心月」はそういう意味ではある種、起承転結でいう「結」のような曲って言ったらいいですね。

瀬尾:これは本人からもいろいろと注文があったので、すごく作るのに苦労しました。ギリまで、じゃあこれ加えてみようとかあれ加えてみようとか、最後に本当に「これならいい」って言われたときは本当にホッとしましたけどね。

田家:何が足りないと言われたんですか?

瀬尾:それを言っちゃったら身も蓋ももないんで(笑)。彼女の場合は、具体的に何が欲しいとか言わない。あくまで抽象的なことで、心情的なことを言葉に出しているので、音の後ろにこういう感じが欲しいとか。それは、ただここを上げてとか大きくしてとかなら楽なんですよね。この気持ちの裏に、こういう感じがあると言うのが、こちらは本当に雲を掴むような感じで。

田家:夜と昼で雲を感じ方も違うでしょうから。月も夜があって昼日中があるっていう。

瀬尾:これは満月の月明かりの曲で、人工の明かりがないところって月ってめちゃくちゃ明るいじゃないですか? でもその明るさと中での、特に蠢めているいろいろなもの、夜が明けるのをみんなで待つという今の気持ちなんでしょうね。ある意味、明るいんだけれども、もののけの、わけの分かりないものが蠢いている世界。それがいつ晴れるか明けるかって、そこまで頑張って待とうっていう。

田家:最後はみんなでコーラスになって。

瀬尾:みんなで気を確かに持ってないと、魑魅魍魎が具体的なものになってくる。いろんなものが生理的、自然的、主義的にも見えないところであったんだけども、見えていくっていうのがだんだん大きくなってきたので。それに対して頑張って対抗していかないっていうか、そういう時に負けちゃったら終わりだよって。だから頑張りましょうっていう。

田家:そういう曲です。

瀬尾:そうやって言うと後で怒られるから、このへんで勘弁して(笑)。

田家:「夜会」の舞台を見てるみたいですね。

瀬尾:ちょっとドラマチックと言うか、これはわざとシアトリカルにしてますね。群衆を入れているので。

田家:どういうレコーディングだったんですか?

瀬尾:普通に小さな形でやってます。バラで録っているので。今は本当に最小人数でやって、それでどんどん重ねていく方法でしかできないんで。

田家:でも、こういう重厚感はあるわけですもんね。

瀬尾:それは私の腕と言ってます(笑)。自画自賛。誰も褒めてくれないので(笑)。

田家:このラジオを聴いている皆さん、そう思ってますよ。

瀬尾:大げさアレンジャーで通ってますので(笑)。

天女の話 / 中島みゆき

田家:お聞いただきたいのは9曲目「天女の話」。関西弁ですね。

瀬尾:関西弁ですね(笑)。僕、関西人だから。

田家:関西弁で歌いたかった?

瀬尾:登場人物のえみちゃんが関西の人だから、そうなんですよね。

田家:デモテープを聞いただきどう思われました?

瀬尾:これは向こうにいる友達の中の一人かなと思いながら、彼女は作家なので、彼女の創作が当たり前で入っている。そこに行く過程とか、電車に乗っていく過程とか、そういうのを出したかったので電車感を出そうと思って。だからガタゴトガタゴトと(笑)。JRかな南海かな近鉄かなとか「何電車かな?」とか余計なくだらないこと考えていて。まあ、それは良いとして、電車の感じを出したかった。

田家:えみちゃんは天女という存在ですね。関西の話は来週もです出てくると思うんですが、世話好きな大阪人の人の良さみたいなものもよく出てる。

瀬尾:よく出てる。おせっかいで、人情深くてね。なんだかんだ言っておいて「知らんけど」って言うけど(笑)。

田家:で、ラストツアーが大阪で終わったこともあって、それに乗じて聞いてしまうんですが、次のライブっていうのはもう見えてるんですか?

瀬尾:まだ今のところは発表するようなところはないですね。本人がやる気はあるんでしょうけど、タイミングを探してるんだと思いますね。こちらも100%収まらないとやらないとは言ってるわけじゃないんでしょうけども、タイミング的に一番いいのはいつだろうなというのはあって。でも、やらないことはないと思います。ある意味、溜まってると思うんで。本人が一番エネルギーが、マグマが溜まっちゃってるかもしれないんで。

田家:それが爆発する日を待ちましょう。

Rolling Stone Japan 編集部

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