中島みゆき『世界が違って見える日』、プロデューサー瀬尾一三と紐解く



流れているのは、この番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。

「なのに人は」っていう歌詞が最後の「夢の京」にありました。人間はこんなに愚かなのか?って思い知らされている3年間だったなと改めて思ったりもしました。アルバムの中にコロナのコの字もなければ、ウクライナのウの文字もないんです。でもこの3年間、特に去年今年と起きている世界中の出来事というのは、もっと濾過されて俯瞰されて抽象化されてドラマ化されて詞になっている。そういうアルバムでもありますね。音楽っていうのは、世の中で目の前に起きていることを歌うんではなくて、その奥にあるもの、その向こうにあるもの、そこからどこに向かっていくのかを聴いている人に教えてくれたり、燈のように明かりを伴してくれたり、希望を持たせてくれる。その答えなようなアルバムでしょうね。

「童話」の中にも、「子供たちに何んと言えばいいのだろうか」って歌詞があったり、最後の「夢の京」では「もう夢の京に帰ろう」って言ってはいるんですけど、もうない国へ帰ろうって言ってるんですね。もうその国はないかもしれない、その京はないかもしれない、でも夢は戻ることができるんだよ、恐れることはないと歌っている。力強いじゃありませんか。いつ終わってもいい。そこまで走り続けるっていうみゆきさんの最出発宣言でもあるんだろうなと思いました。歌詞を見ながら、何度も何度も聞いて、何を歌っているのかをじっくりと味わってみてください。


左から、瀬尾一三、田家秀樹



<INFORMATION>

田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp

Rolling Stone Japan 編集部

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