収監直前のNORIKIYOが語る、10thアルバム『犯行声明』の真意

“犯行予告”を書くことから始めた

―ネットニュースで知った時、とにかく「ラッパーNORIKIYOが末端価格1億円超の大麻を売買し逮捕」という見出しのインパクトが強すぎて。

それも、警察側が”1億1000万円”って言いたかったんですよ。欧米などの通常の大麻ユーザーが摂取する部分って、大麻草の一部分だけなんですよ。ニュースでは18.4kgと報じられていたんですけど、最終的に起訴された内容に書かれているのは6kg弱なんです。(普通は吸わない)茎や鉢とかの部分も入れて、3倍くらいの量に盛られている。だって、麻薬取締捜査官の人たちや所轄の警察、熊本県警本部とか、みんなが約1年にもわたって捜査してきた事件なんだから、どうにかこれをモノにしたいっていう、その気持ちは分かるんすけど、「事実と違う演出が凄すぎるでしょ」って。そこで、「これはもう俺のゲームじゃない」と思ったんすよ。俺が立ち入ることができるゲームじゃないし、俺が戦っても、黙る以外戦う術がなかったし、弁護士も「完全黙秘してください」っていう感じ。「余計なことを言ったら、こじつけられて何をされるか分からない。裁判まではこちらから真実を明かすことはやめましょう」と、当初からそういう作戦でした。

―「オレナラココ」のMVを見ていて、捜査中の会議室を思わせるホワイトボードに「NORIKIYOの銀行口座にTuneCoreから2億円を超える入金」と書いてあったのが個人的に気になったんです。TuneCoreからの入金ということは、紛れもなく楽曲制作の売上金ということにも関わらず、警察からはそのような疑いが掛けられていた。

結局、彼らのストーリーを補強するもの、言い換えると、彼らが立てた仮説を立証するのに使えそうな証拠だけを集めるんですよ。それ以外の証拠は、裁判所には出さないんですよね。自分に都合のいいものだけを証拠として裁判のステージに上げて、都合が悪い、たとえば「こいつは大麻なんて売っていない」って事実を裏付けるような証拠は出さない。フェアじゃないことは他にもあって、まず、取り調べの段階でアメリカみたいに弁護士が脇にいるわけでもないですし、密室の中でずっと取り調べのプロフェッショナルの人たちのリングの上に、ルールすらわかっていない、パンチの打ち方すらもわからない俺が放り込まれた感じです。それはもう、ガードするしかないから。ずっと黙りこくるしかなかったっていう感じです。銀行口座もまず全部開示させられて、お金の動きも調べてられていたんです。俺が親父に車を買ってやって、その車屋さんが水戸なんですけど、(警察たちが)水戸まで行ったらしいですからね。何年も前の話なんですけど、そうした金の動きも全部、「大麻を売り買いしている経路じゃないのか」と疑われて。アルバムの中でも言ってるんですけど、1回、犯罪者になってしまったら、もう死ぬまでずっとその犯罪者として扱われてしまう。それは自分がしたことだし、日本は法治国家だから、法律に違反したので前科者として扱われること自体はいいんですけど、改めて、そういう状況がずっと続いて、そういう過去と付き合っていかなきゃいけないんだなっていうことを再確認しました。

―現時点では、『犯行声明』の特別サイトもオープンして、ファンの方は、NORIKIYOさんからの直筆の手紙を読むことができる。手紙に記載されている日付は、2022年の7月9日になっています。改めてこの手紙を書いたときの心境や状況に関しても伺えますか。

2022年7月8日に、安倍元総理が亡くなられたじゃないですか。その事件の翌日に留置場の中で新聞が回ってきて、結構衝撃を受けたんです。日本という国で、かつてのジョン・F・ケネディの暗殺事件みたいなことが起こったんだな、と。その新聞に掲載されていた写真を見ても、結構生々しかったんですよ。特定の宗教団体の人たちに陰で応援してもらっていて、そのツケが廻ってきたというか、この国のハンドルを直接握っている人たちのところに帰ってきたというか。そして、その事件を起こしてしまった容疑者の方が、なんていうか、全く後悔してないような印象を受けたんですよ。「別に俺は何も悪いことしてないぜ」っていうか。人を殺めること自体は絶対あっちゃいけないことだとは思いますけど、この国に対して一矢むくいたというか、「自分の人生でやらなきゃいけないことをやっただけだ」っていうような感じの印象を受けたんですよ。彼の供述的な物を新聞で読んで、「俺の人生と俺の家族をぐちゃぐちゃにして、ずっと放置してきた政治家どもにカマしてやったんだ」っていうふうに感じたんですよ。そのときに、“犯行声明”っていう言葉を思いついて、「そういうアルバムを作りたいな。作れるじゃん」と。「そのために先ずは何が必要だろう?」と考えたときに、「犯行予告でしょ」って。まだ歌詞は1行も1小節も書いてないけども、とりあえず“犯行予告文”を書こうって決めたんです。取り調べで刑事や検事さんに何をどういうニュアンスで言われたとか、こういうことを聞かれたとかを、つぶさにメモしていたレポートバッドに、まず“犯行予告”の文章を書くことから始めたんです。

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