収監直前のNORIKIYOが語る、10thアルバム『犯行声明』の真意

自分と対話するしかなかった

―それが、この手紙ということですよね。この手紙の中にも「国家というプラットフォームに操られているのではないか」といったメッセージが書かれている。便利な世の中になったけれどもそういうサービスやツールを使わされているんじゃないかとか、その国家は我々の所有権を守るふりをしているとか、そういった問題意識は以前から抱えていたものですか?

漠然と感じていたことはあるんですよ。自分って何なんだろう、どっから来てどこに行くんだろう、とか、そういうことを考える時間を、AIやアルゴリズムみたいな便利なものに奪われてる、というような。あの手紙を書くときに、その考えをより精査していったんです。俺がやったことは、この国では犯罪とされていることかもしれませんけれども、被害者がいなくて、逮捕される前までは誰にも迷惑をかけていない。それを裁くことがこの国の正義であり、都合なのかと思って。検事さんから取り調べを受けているときに、「何でこの事件を起こしたんですか」と聞かれて、その時、「調書にサインはしないけど、それを前提としてお話していいですか」と言って自分の考えを話したことがあるんです。「たとえば夜中に、田んぼに囲まれたような20キロの速度制限がある道路を、30キロや40キロで走ったことありますか?」って。そうしたら「はい、あります」っておっしゃって。「それは、道路交通法違反ですよね。でも、検事さんも、誰にも迷惑を掛けていなくて、かつ安全だって分かってるから、多分アクセルを踏み込んだはずですよね。僕がしたことはそれと全く一緒のことです」って言ったら「それは違います」って言われたんですけど、僕からしたら一緒のことなんです。「誰かに何か迷惑かけたか?」っていう。結局、でかい声で「これが正しいことです」言っている人たちの都合でいろんなことが決まってしまうし、その正義や正しさってのはあやふやで、時代も変わったら、それも一緒に変わっていくものでもある。何ていうか、「すげえに腑に落ちねえな」みたいな。スピード違反した人が捕まるか捕まらないかっていうのも、結局、その日そこで検問をやると決めた国家の都合の話だし、それを「運が悪かったな」だけで済ませていいものなのかなって。

―リリース前に公開されたプレスリリースでは、アルバムの歌詞の9割は勾留中に書いたものだと明かしています。

勾留されている間は他の人と自由におしゃべりできないし、接見禁止で弁護士としか会えない。だからもう、自分と対話するしかなかったんです。だから、自分の思っていることを書き留めてたりしていた。さっきも触れた“犯行予告”って文章は、俺が普段から考えていたことを言語化したもので、それを書いた時に「しっかりとスタートとなるものが書けた」という意識はありました。正直、勾留中は完全黙秘しないといけなかったんでストレス溜まってたっていうか、暴言吐いて言い返したかったんです。言いたいことがもういっぱいあったんで、それをテーマに分けてって、「これはここで言おう」と。ばーっと溢れていくように(歌詞を)書いた。『犯行声明』ってアルバムを作ろうと思ったときからは、もう取り調べも全部ネタだと思ってました。取り調べに呼ばれたら、「よし、今日はどんなネタくれっかな」みたいな思いでしたし、檻の中で1人でいる時間も、ずっとぶつくさ言いながらノートにリリックを書いていて。就寝時間が来るとボールペンとノートを取り上げられちゃうから、その時間が来るのが嫌だったんですよね。

―ある意味、そうした極限の状態というか非常に制限された状態の中でリリックを書くことって、NORIKIYOさんにとって一種のセラピー的というか、そうした作用はありましたか? いつもの生活においてリリックを書くうことと、そうした状況の中で書くということは、違う意味を持っていた?

いつもは普段の生活のリズムとして日々思ってることを、曲として書くわけなんですよ。その曲が全て世の中に出るわけではなくて、日々、クソ曲がいっぱい溜まっていって、その中のキラリと光るところだけが集まって曲になるんです。でも、勾留されていた時は、そのリズムが崩れていたんですよね。ずっと便秘でスッキリしないみたいな状態でが続いていた。なので、勾留中でも曲がバーって書けるようになってきたら、メンタル的にも健康になってくるっていう感じでしたね。保釈許可が降りた後、出てきて二日目くらいに(プロデューサーの)BACHLOGICさんに「ご心配をお掛けしました」という連絡をして、「実はアルバム一枚分のリリックを書いてきたんで、録らせてください」と伝えたら、「すぐやろうや」みたいな感じで言ってくださって。速攻、彼のスタジオに行って録り始めました。

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