収監直前のNORIKIYOが語る、10thアルバム『犯行声明』の真意

ZORNからの依頼、STICKYの存在

―昨年の11月、ZORNさんがさいたまスーパーアリーナで単独公演を行った際、NORIKIYOさんが一人でステージに立って「2 FACE feat. BES」をパフォーマンスした姿も印象的でした。「こうした形で、一旦戻ってきたんだな」と。

ZORNさんがさいたまスーパーアリーナでライブをやるっていうことは、シャバにいた時から知っていたんですけど、逮捕されたから「これは行けないな、申し訳ないな」と思っていたんです。そうしたら、数人いた弁護士のうちの1人から、「ZORNさんが(ライブの演目で)NORIKIYOさんの曲をやっていいかと言ってます」と言われて、「ああ、是非是非やってください」と伝えていた。(保釈許可が下りて)出てきてから、日程的には間に合うけれども、俺としてはもう出るつもりはなかったんです。そうしたら、ZORNさんが「一曲やりに来てくれない?」と言ってくれて。勾留されている間はずっと4畳半の世界にいたので、本番の日はいきなり(ステージの)下からバーって上がっていって「すげえ広い空間だな」みたいな。ギャップがすごくて、よく分からないまま終わったんですよ(笑)。

―数あるZORNさんとのコラボ曲ではなく、あえて1stアルバム『EXIT』(2007年)に収録された「2 FACE」を選んだのは、どのような理由があったのでしょうか。「2 FACE 」にも、警察と対峙する光景を匂わせるリリックがありますが、当時のリリックは、現在のNORIKIYOさんにどう響いていますか?

これは、ZORNさんの方から「この曲をやってください」と依頼を受けたんです。あの曲を皆さんが好きだと言ってくれるのは嬉しいんですけど、正直、僕の中ではこそばゆくて。当時はああいった世界に身を置いていたーーイリーガルなことを商売、生業としている頃に書いた曲なんですよね。だから、今はもうそういう仕事をに携わってない俺が歌うのは違うんじゃないかな、とは常日頃から感じていたんです。それで、いつからかライブではあまりやらなくなったんですよね。でも、ZORNさんのさいたまスーパーアリーナのライブの時点では、自分がまたそういう状況になっていた。やっぱり、自分に対してガッカリな部分もあるっていうか、せっかくそこから抜け出してまともな暮らしが出来ていたのに、病気のせいとはいえ(※NORIKIYOは国の指定難病である重症筋無力症を患っている)、結局また自分のせいでそういう目に遭っているということを感じた時に、「またここに戻って来てるんだ、俺」って。厳密にいうと違う場所ではあるんですけど、複雑な気持ちではありますよね。確かに自分の曲なんですけど、あの頃書いた気持ちとはまた違う気持ちで、昔の曲を歌っているというか。



―「オレナラココ feat. STICKY」では、かつてSTICKY(2021年没)さんが所属していたグループ、SCARSがリリースした「SCARS」(アルバム『SCARS』[2006]収録)でラップしている「JailがこのGameの代償」というフレーズをサンプリングしています。もちろん、当時のSTICKYさんの状況と現在のNORIKIYOさんの状況とは異なると思うんですが、かつてのこのフレーズを、どんな気持ちで再構築したのでしょうか。

檻の中で、STICKYの“JAILがこのゲームの代償”って声が突然降りてきたんです。ここでいうゲームは、要はドラッグディールのことだと思うので、僕がしたこととは違うんですが、法に触れるという意味でのゲーム、という認識で使おうと思ったんです。“JailがこのGameの代償”と、その次の“でも俺の声まではぶち込めないっしょ?”ってフレーズが同時に降りてきた。それで、「あ、そういう曲を書こう」と思って。STICKYはもうここには肉体的には存在していないけど、曲を聴けばそこにいるし、俺の胸の中にもいる。だったら、「オレナラココ」っていうタイトルは、俺が収監されてもされなかったとしても、「これを聴いたヤツの頭の中にいるぜ、俺はそこにいるからね」っていう意味合いで付けた曲名なんです。ある意味、捜査機関への嫌味っていうか、ちょっとシニカルな表現方法ができるなと思って。だから、「この曲は面白いものになるんじゃないか」と思って書き始めました。俺が檻の中でムシャクシャしてる時に、STICKYが「おい、書けることあんだろ、これ使えよ」って言ってくれたような感じがするんです。

―この状況において、改めてNORIKIYOさんがラップのパワーみたいなものを感じることってありますか。

やっぱり、いろんな先輩の曲たちを聞いたときもそうですけど。日本のヒップホップにハマった時、たとえばスチャダラパーの曲を最初に聴いたときは、何か楽しい気持ちになれたし、世の中のおかしなところに楽しく突っ込みを入れてく、みたいなちょっと大人な視点をゲットできたんですよ。ジブさん(Zeebra)とかRHYMESTERの曲を聴いた時には強くなれたという気持ちだったり、マイクロフォンペイジャーを聴いた時に、まるでMUROさんやTWIGYさんみたいなクールでかっこいい人になれたような気持ちになったりするとか、そういう風に気持ちを動かされてきた。今回は、檻の中で自分でラップを書き始めた時に、自分の言葉に勇気づけられるというか、曲を書いて檻の中でちっちゃい声で歌いながら、「そうそう、そうだよな、やっぱりこうじゃなきゃダメだよな」みたいな、自分で自分の言葉に納得するような部分はありました。

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