RADWIMPS・野田洋次郎とZORNが語る、コラボ実現の経緯、音楽を通して伝えたかったこと

「ここは絶対に譲れない」という瞬間をめがけて作った

─Zepp Hanedaにおける洋次郎くんのMCで印象的だったのは、自分はもともと勝利に対して貪欲な人間ではない、でも、自尊心や矜持、大切な人を守るためには勝たなきゃいけないこともあるということをこの曲のメッセージとして込めたという趣旨の言葉で。

野田:そうですね。音楽の世界では「これで完成だ」と自分が思えば完成だし、それは揺らがないと思っていて。だから俺は音楽の世界で生きることができてよかったなと思うんだけど、でも、吉田選手のメールインタビューの返信を読んだときにサッカーの世界は本当に勝つことがすべてなんですよね。悔しさを上書きできるのは勝利だけで。その潔さとある種の残酷さがある世界で生きてる人たちの強さにはリスペクト以外ないし、「ここは絶対に譲れない」という瞬間は生きていてもあるし、その瞬間を目がけて作りました。

ZORN:僕は野田さんの歌詞を何回も読んで自分なりに解釈して自分のリリックに取り掛かったので、とにかく決して邪魔をせず、自分がいる役割を果たしつつ一つの曲ができたらいなと思って。その役割というのは、「ぶちかます」の一択でしたね。

─ZORNさんは勝つということに対してはラッパーとしてマイクを持ってからずっと意識し続けてきた人なのかなと思うんですね。あるいはそれは「ひっくり返す」という言葉に置き換えてもいいかもしれないけれど。

ZORN:そうですね。それってヒップホップの根本的なテーマでもあるし、野田さんが書いた曲を聴いて思ったのが「あ、これは負けたことがある人の歌詞だな」ということで。

─それはすごく思いました。負けを知ってる人の歌でもありますよね。

ZORN:そう。そのストーリーであり、ドラマだなと。だからこそ、ヒップホップ的にはすごく地でいけるというか。そこからどうひっくり返していくかという話だと思ったから。これってきっとサッカーやスポーツに限らず勉強に向かう人でもいいし、仕事に励む人でもいいし、生活レベルでの挑戦が各々にあるはずなので。何かの本番に向かう前に聴いて、自分を鼓舞して「勝つしかねぇ」という気持ちでいける熱量を込められたらなと思って書きましたね。

─ZORNさんが歩んできた足跡をこの曲のリリックからもはっきり感じ取れる。

ZORN:それが反映されていないとラップを入れる意味もないと思うので。「これは歌い手本人の人生のことなんだろうな」というある種のダイレクトさやストレートさを出すのはラップだからこそ出せる部分でもあると思うので。

─それこそ、ZORNさんはパンデミックが始まった2020年に自主レーベル「All My Homies」を設立して、アルバム『新小岩』をリリースしてからものすごいスピードで状況をひっくり返してきたわけで。パンパンの武道館に立って、その翌日の朝から現場仕事に行くなんてマジで誰も成し遂げたことがないわけで。

ZORN:ありがとうございます。

野田:一番カッコいいよね。

─それができると、きっと誰よりもZORNさん自身が一番自分を信じていた結果でもあると思いますし。

ZORN:そうですね。本当にもしかしたらこの曲の歌詞の主人公通りでもあるというか。でも、まだまだ自分はだいそれたところまで来てるとは思えなくて。ヒップホップでラッパーだから、さいたまスーパーアリーナでワンマンをやるのはすごいってなるけど、一歩外に出ればいろんなジャンルの人があたりまえのようにやってることだし、まだまだだなとしか思えない。でも、自分の今の悩みや葛藤もめちゃめちゃ贅沢だということもわかってるので。それもありがたく曲にしたいと思っていて。だからこそ、こういうチャンスは余計にありがたくて。今回の話をいただいたときに純度の高いヒップホップのまま、純度の高いラッパーのままもっと表に出ていけるチャンスでもあるなって思いました。リリックの内容を制限されるわけでもなく、最大限に尊重してもらいながら制作できたし、対等にバチバチやり合えてる曲だと思いますね。

野田:表現するにおいて、2種類に分かれると思うんですよね。「俺はもうこんなにいろんなものを手にしたぜ」って思うか、「俺はまだあれができてない、あんなにすげぇやつがいる」って思うか。俺も、自分が手にしたものはちゃんと誇りとして持ちながら、でも自分がまだ叶えられてないことがあるのを一番知ってるから。

─だから、曲が完成しても新しいトラックを作るし、パブリックイメージとしては常勝してるバンドだと思われてるかもしれないけど、おそらく洋次郎くんだけが知っている敗北の味もあるだろうし。

野田:そうそう、もちろん。それは音楽的にも、状況としても。今年回っているワールドツアーの全会場がソールドアウトしてるって言われても、それはマックス5千〜6千キャパで。「じゃあ次はアリーナでやりたい」という欲はつねに生まれるし、音楽としてもシンプルにもっともっとできることがあると思えるし、それを探求したい。ZORNとはそういう部分の波長もちゃんと共鳴できるから。「これだけ手にしてるけど、じゃあそれを武器に次は何をする?」という話をしたいと思える人なんですよね。

─あらためて、洋次郎くんが今後のZORNさんにどんなことを期待してますか?

野田:もう、期待しかない。さっき言っていた、ヒップホップとしての純度を薄めずにこの先、どんな音楽をやっていくのか。それはけっこうな難易度のあることをやっていく未来だとも思う。それに伴う苦しさもあるかもしれないけど、でも、きっと一番楽しいはずで。先輩面した言い方になるのは嫌ですけど、まったく未知のことだから楽しみだし、俺もその都度影響を受けたいと思ってます。また何かのタイミングで一緒にやりたいと思うし。

─今度はZORNさんの曲に洋次郎くんが呼ばれることもあるかもしれない。

ZORN:いいんですか?

野田:緊張するわぁ。

─ZORNさんは洋次郎くんの言葉を受けてどうですか?

ZORN:うれしいですよ。うれしいし、声をかけてもらった以上、しっかり応えなきゃいけないと思いますし、責任感もあります。いつか自分に野田さんを呼びたいと思う曲ができたときは、声をかけたいですね。野田さんを見ているととにかく学びが多いので。まだ底が見えない感じもあるので、引き続き調査を続けたいと思います。あと、個人的には一番上の中3の娘のスマホから「大団円」が流れてきて。

野田:すげぇうれしい。

ZORN:娘に誇れる仕事。それが一番なんで。本当にありがとうございます。

野田:とんでもないです。こちらこそです。

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「大団円 feat.ZORN」
RADWIMPS
配信中
https://lnk.to/daidanen

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