ソニックマニア総括 ジェイムス・ブレイクらが提示した「深夜ならではのカタルシス」

ジェイムス・ブレイク(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

サマーソニック東京の開催前夜に幕張メッセにて行われるオールナイトの祭典、ソニックマニア。その最大の特徴のひとつは、クラブミュージックのDJ/プロデューサーと、クラブカルチャーに親和性が高いライブアクトをバランスよく織り交ぜたラインナップだ。8月18日に開催された今年もそんなソニックマニアらしさは踏襲しつつ、出演者の全体的な傾向はよりディープなクラブ寄り。それゆえに今年のソニックマニアは、オールナイトならではの興奮や喜びやカタルシスが例年以上に強く味わえる一夜だった。

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グライムス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


グライムス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【Grimes (DJ Set)】21:00~21:50

筆者が最初に観たのは、SONIC STAGEのグライムス。今回はライブではなくDJセットでの出演だ。だがDJセットとは言うものの、実際は音と映像とダンスを掛け合わせた総合芸術表現と呼ぶに相応しい内容だった。

特に素晴らしかったのは、Perfumeのライブ演出でも有名なクリエイティブチーム、ライゾマティクスとコラボしたビジュアル表現。映像を照射する画面は、グライムス後方のスクリーンと、垂れ幕のようにステージ前面を覆い尽くす半透明スクリーンの計2枚。前方の半透明スクリーンは3D映像を投射できるのに加え、映像が視界全体に広がる巨大さのため、観客に強い没入感をもたらす。そして後方のスクリーンに投射されるのは、アニメ、中世ヨーロッパ、AI、ロボットなど、グライムスの美学が高圧濃縮されたギークな映像。この2つの映像の掛け合わせが、オーディエンスをグライムスワールドに引き込むのに大きな役割を果たしている。

視覚がそのような映像で支配される中、グライムスのDJセットが展開される。大箱向けのEDM~テクノを基調に、「Welcome To The Opera」「We Appreciate Power」など自身の曲から、マライア・キャリーやレディオヘッドやデヴィッド・ボウイやブルガリア合唱までを混合。グライムス節としか言いようがない、ソキゾフレニックでポップでマッドでマッシヴなプレイだ。さらに2人のダンサーによるパフォーマンスが、音と映像の世界観を引き立てる。もはや完全なる異世界。どれをとっても強烈なグライムス印。通常のライブ以上にグライムスの世界観が濃密に伝わってくるステージだった。

一応触れておくと、グライムスのDJ中、ステージ上でイーロン・マスクがグライムスの前に立ってずっと動画を撮っているのが邪魔だとSNSで炎上した。確かにイーロンはウザかった。だが、半透明スクリーンの後ろで2人とも陰になっていることが多かったので(そもそもグライムスの姿も最初から見えづらかった)、ステージ全体の世界観創出の邪魔にはなっていなかったのが不幸中の幸いだろう。



サンダーキャット(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


サンダーキャット(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【Thundercat】22:00~23:20

グライムスが終わると、すぐMOUNTAIN STAGEに移動してサンダーキャット。ステージに登場したサンダーキャットは、ブレインフィーダーのロゴがプリントされた着物に猫耳のヘアスタイル。そして太陽のように明るい笑顔で「コンニチハ、ニッポン!」と元気よく挨拶。もうそれだけで完全につかみはOKだ。彼の人懐っこいキャラクターと日本愛がばっちり伝わってくる。

演奏はいつもながら超絶。音源では1、2分台の短い曲が多いが、ライブでは曲のフレーズをモチーフにしたインプロビゼーションで大きく引き伸ばされる。この即興の主役を張るのは、サンダーキャットのベースとジャスティン・ブラウンのドラム。どちらもひたすら手数が多いダイナミックなプレイで、流れるような滑らかさと目まぐるしい勢いで曲を展開させていく。そしてデニス・ハムの鍵盤は2人との間合いを計りながらグルーヴをキープ。相変わらず見事なトライアングルだ。

セット中盤には、MCで坂本龍一と対面したときのエピソードを披露。そして盟友テイラー・グレイヴスをゲストに迎え、坂本龍一の曲をサンプリングしたオースティン・ペラルタの追悼曲「A Message for Austin」と、坂本龍一「One Thousand Knives」のカバーをプレイする。ソニックマニア2日前のジェイムス・ブレイク大阪公演では、坂本龍一の「Andata」がオープニングSEに使われていたという。英米の素晴らしい才能たちからの立て続けのトリビュートに、改めて坂本龍一がワールドワイドに与えた影響の大きさを実感した。



シャイガール(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【Shygirl】22:50~23:40

サンダーキャットに後ろ髪を引かれながら、ここでPACIFIC STAGEのシャイガールに移動。すでにライブは始まっている。ラップトップでトラックを流すバックDJが一人、そして幾つもの円形ミラーに囲まれてステージに立つシャイガール。ライブの形態は完全にラッパーのそれ。しかし、紫がかった青とピンクを基調としたソニックマニアの照明が、妖しげなクラブのような雰囲気も醸し出している。

UKクラブミュージックとハイパーポップとR&B/ラップのスタイリッシュなフュージョンを得意とする彼女だが、ソニックマニアの客層もあるのか、この日はクラブ寄りのアプローチが強い曲が映えた。特にセット後半にかけてのハウシーな「Poison (Club Shy mix)」、ジャージークラブとレイヴサウンドを接合した「TASTY」、ドラムンベースを搭載した「Crush (Live Edit)」は大歓声で迎えられた。これから深夜に差し掛かっていく時間帯に相応しい、夜の匂いがするディープなセットだった。

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