麻薬中毒、性的暴行、SMプレイ、カニエの元カノが暴露した波乱万丈な日々

Photographs by Richie Shazam

女優でモデルのジュリア・フォックスが、真の姿を暴いた最新自叙伝『Down the Drain』を上梓した。同書を軸に彼女の人生について振り返る。

【写真を見る】SM女王として人気を集めた、ほぼ裸のジュリア・フォックス

この日筆者はジュリア・ロバーツの同伴役だった――少なくともそんな雰囲気だった。場所はクリントンヒルズ、ブルックリン・クイーンズ高速道路の高架下にひっそり佇むスパ「Body by Brooklyn」。薄暗いVIPルームで、2人ともふわふわのパイル地のバスローブを着ていた。泡風呂にはバラの花びらがこれでもかと浮かべられているが、おそらく入ることはないだろう。待ち合わせから1分半ほどが経過し、いざマッサージを受けようという段になって、彼女は私に水着のトップスを脱ぐようしぐさで示した。

「ちょっとあなた、それは脱がなきゃだめよ」。極左ポッドキャストの司会者を思わせる抑揚のない低いトーンにドリュー・バリモアのような南カリフォルニア系の陽気をにじませて、母音を伸ばす独特の話し方で彼女は言った。「水着の上から背中をさすってもらうつもり?」。

確かにその通り。私はワンピースの水着を着ていた。フォックスに寛いでほしかった――というのもあるが、彼女がカンヌでガラス製の透明ビスチエを着用していたのを見たばかりだったのと、自分が産後1年経っていないというのもあり、彼女の前でボディラインをさらすのは自虐行為だと思ったのだ。私の配慮に彼女は感激し、理解を示してくれた。「あなたに最高のマッサージ体験をしてもらいたいのよ」と彼女は言った。

最近のフォックスには、休息や回復もひと苦労だ。彼女は様々な顔を持つ。モデルであり女優であり、(例の拡散動画によれば)映画『アンカット・ダイヤモンド』のジョッシュ・サフディ監督のミューズであり、インフルエンサー。世界的有名なラッパー兼ユダヤ人差別主義者の愛人として、Carboneレストランに足しげく通っていたこともある。そして2歳半の息子を持つ母親で、このあとも託児所にヴァレンティノ君をお迎えに行く。待ち合わせた時も、また違う顔で登場した――ディーゼルのキャップに、フリンジのついた白いショートパンツとDsquared2のストーン付フラットシューズ、3人の中東女子ボディビルダーの写真入りTシャツといういで立ちで、髪は鮮やかなダークレッドに染めていた(とんでもなくイカしてる。いや、実際フォックスは何を着てもお似合いだ)。

10月、フォックスはさらに別の顔を持つことになる。自叙伝『Down the Drain』の筆者としての顔だ。春巻とパッタイを囲みながらフォックスから聞いた話では、息子のヴァレンティノ君が週に2日、元恋人のピーター・アルテミエフと面会する「嵐の状態」で書いた本だそうだ。子どものころは作家になるのが夢だったそうだが、中学の時に英語教師から作文を読み上げられ、クラスメートにからかわれたのをきっかけに断念した。「自分の気持ちを人に話しちゃだめ、まわりの評判はきっとよくないから」と、本人は当時の心境を振り返る。「あの時ダメ出しだされたせいか、私の中で封印したの」。

『Down the Drain』を読むと――行く先々でフォックスがどんな話題でも会話に加わるのを見ているせいか――気持ちを表に出したがらなかった時期があるとは想像しがたい。彼女は散らかったアパートをTikTokで紹介したり、麻薬中毒や売春の過去を公然と口にしたり、Interview Magazine誌で前述のカニエ・ウェストとロマンスを記事にしたりと(もっとも自叙伝の中にも書かれている通り、記事は見かけとは裏腹に暴露とは程遠かった)、いわば暴露の女王だ。

「真実に対処できないのは、自分の責任」だと彼女は言う。この点、『Down the Drain』は期待を裏切らない。麻薬の過剰摂取、歴代のヤク中恋人との虐待的な関係、流産、性的暴行、育児放棄、意地悪なライバル女王のロッカーに排便したことなど(厳密にはロッカーで排便したわけではなく、トイレでいたしたブツを掬い取った)、ぞっとするような話が盛りだくさんだ。

だが実際のところ、世間で知られているフォックスのイメージは、『Down the Drain』の人物とはまるで別人だ。コンドームを模したチューブトップ、著名人との浮名、物憂げな瞳――これらは鎧であることをフォックスの自叙伝は明らかにしている。世間(大半は男性)がつい自らの欲望を投影してしまう若さと色気と美貌を備えた女性が、そうした連中に抗うためのひとつの術なのだ。

「パフォーマンスです」と言うのは、長年の親友でフォックスのスタイリストを務めるブリアナ・アンダロア氏だ。「子どもを養わなきゃいけないんですよ? 子どもに住む家を与えてやらなきゃいけない。自分がやるべきことをやる、それが私たちのメンタリティです。人生ずっとそうでした。サバイバルのメンタリティです」

フォックスはニューヨークシティの代名詞的存在なので、ニューヨーク以外の場所で暮らしている姿は想像がつかない。雑草がはびこるこの街で、彼女はいわば希少な蘭だ(たとえお尻の部分に穴が空いたラテックスのカウボーイパンツを履いた希少種だとしても)。だが実はイタリア生まれで、6歳まで母親と祖父の元で暮らしていた。その後ニューヨークに移り住み、風来坊の父親と暮らした。

Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE