sunking シアトル実験デュオが語るヒップホップ、ジャズ、エレクトロを跨ぐ音楽人生

Photo by Will Matsuda

 
シアトル出身のエクスペリメンタル・ユニット、サンキング(sunking)が来日。10月中旬から下旬に掛けて、朝霧JAMに初出演を果たし、都内5箇所でライブを行った。インスト曲が基本だが、今回はホーン奏者も一緒に来日。必死の形相で叩きまくるドラム担当のボビー・グランフェルト(Bobby Granfelt)と、ケーブルを繋ぎまくったアナログシンセをひょうひょうと鳴らすアントワン・マーテル(Antoine Martel)の2人に、滞在先の阿佐ヶ谷で対面した。


ー日本のツアーは3度目だそうですね。

アントワン:うん、1度目は“デンタルの唾”というバンドで来日。日本語で歌っていたから、そりゃ日本に行くのが当然だよなってことで。2度目もそのバンドで来日予定だったけど、直前にボーカルがハーバード大学博士号をゲットしたものだからバンドを辞めちゃって。でも航空券もあったし、ライブもブッキングされていたから「じゃあ行くか」ってことでサンキングとして来日したんだ。

ボビー:その時は、確か全国8箇所ほどやったのかな。大阪や京都にも行ったし。でも台風のせいで名古屋はキャンセルになったけど。


ボビー・グランフェルト、朝霧JAMでのライブ写真(Photo by Taio Konishi)


アントワン・マーテル、朝霧JAMでのライブ写真(Photo by Taio Konishi)

ー今回は朝霧JAMに初出演。アメリカのフェスとは違いましたか?

ボビー:とにかく驚いたし、最高だった。働いている人たちが、みんな凄く親切で、プロフェッショナルだった。アメリカのフェスより全然ちゃんと機能していた。

アントワン:日本に来てから僕たちはずっと感心しっ放しなんだ。「機能的な社会がちゃんと機能している。全てが機能している世界だ」ってね。素晴らしいことだよ。

ーアメリカのフェスも最近は次第に良くなってきたのでは?

ボビー:いや〜アメリカは変わらないよ。カオスのまんま(笑)。全てが遅れがちだし、何も前へと進まない。フェスで働いてる人たちってボランティアが多いんだよね。

アントワン:何をすべきか把握してなくて、グダグダになってしまう。

ボビー:それに比べて日本のフェスは、人がちゃんとしているし、サウンドも完璧。

アントワン:家族連れがいたり、防音の耳当てをした幼い子どもたちが楽しんでたのも、見てていいなって。アメリカのフェスではあまり見かけない光景だったよ。

ー先週末(10月21日)の東高円寺UFO CLUBでのライブも観せてもらったんですが……。

ボビー:あそこでやるのは、これで3度目かな。もう僕たちのホームベースみたいなもんだよ。

アントワン:あそこは音もいいし、他のクラブもそうだけど、日本のステージに立って演奏させてもらえることをすごく有り難く思っている。感謝しているよ。

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ー今回、初めて取材させてもらうにあたって、訊きたいことが山ほどあるのですが、まずは音楽に目覚めたきっかけや、結成の経緯から教えてもらえますか。

アントワン:うん、一緒にロックバンドを始めたのは、確か15とか16歳だったかな。

ー当時憧れていたロックバンドや目標にしているアーティストはいましたか?

ボビー:うーん、2人とも全然違う音楽を聴いてたから、別々に話した方がいいんじゃないかな。

アントワン:そうだね。僕はクラシックピアノを始めたのが5歳くらいで、全然好きじゃなかった。とにかく大学に入るまでは続けたけど、その後ギターにハマってしまった。でも、“デンタルの唾”を結成したら、僕より全然上手いギタリストがいたから僕はキーボードをやることに(笑)。大学ではルームメートが全員ジャズミュージシャンだったから、ジャズも学んだ感じだけど、他の奴らは本当の凄腕ジャズマンだったのに対して、僕は大したことなくて……(笑)。

ボビー:僕は、ヒップホップをいっぱい聴いて育ったよ。両親が全然音楽を聴かなかったから、何でも好きなものを自分で選んで聴いていた。ヒップホップ、パンクロック、スケーター系、グリーン・デイやブリンク182など。ドラムに初めて触ったのは、従兄弟の家で、すぐ虜になったんだ。13歳の誕生日にドラムセットを買ってもらって、レッスンを始めて、その頃からバンドを組みたいと思っていた。自分には、それしかないってね。友達とバンドを組んで、18〜19歳ぐらいでもうツアーに出ていたよ。全部自分たちでブッキングして、電話して、メールして西海岸中を車で回った。その頃のバンドはポストパンク系かな、ギターが3人いて大迫力だった。その後、大学でジャズにも興味を持ってからは、最初はビーツ・プロジェクトって呼んでいたかな、サンキングと命名する前は。ジャジーなヒップホップとかやっていた。

ーサンキング(sunking)という名の由来は?

ボビー:ビートルズの曲「Sun King」じゃなかったっけ? ずっと住んでた古い家の前を車で通った時、すごく晴れてる日だったんだけど、ちょうどこの曲が流れてきて「この曲って何? すごくいいな。バンド名に良くない?」って感じで決めたんじゃなかったかな。

アントワン:僕の記憶とは、ちょっと違うけど、まあいっか(笑)。



ー音楽的な方向性に関しては、どんな話をしていましたか?

ボビー:個人的には、とにかくドラムをムチャクチャ叩きたかったんだ(笑)。フライング・ロータスの『You’re Dead!』やディアントニ・パークス参加の『Flamagra』みたいなクレイジーなドラムをね。そういうのをやってたらアントワンが「もっとこういうのやろうよ」とか言って、そういうビートのトラックを50曲ほど作ったんだ。それが1stと2ndアルバムになった。だから、ほとんど話し合いとかはしなかったし、それに3つのバンドを同時にやっていたから、アウトレットは他にもあったんだよね。2人でやると自然とこうなるという感じかな。

アントワン:ハイ・パルプ(High Pulp)というバンドもやってて、そっちは大人数だから、何をやるにも大ごとで大変なんだ。でもサンキングは2人だから、会話しながら普通にできてしまう。



ー現在も両方の活動を並行しているわけですよね。

ボビー:9月中はハイ・パルプとしてずっとUSツアーをやってたし、その後日本に来たけど、また次の土曜にあっちに戻ったら、翌日にはハイ・パルプのライブがあるよ。

ー先ほどの話だと、サンキングの2枚のアルバムの楽曲は、同じ時期に作られていたということ?

アントワン:そうだよ、1枚目の『sunking』(2019年)の方は、アルバムとして上手くまとまりそうな曲を選んだ感じで、2枚目の『SMUG』(2022年)の方は、「もっとジャズっぽくホーンを入れてみよう」とか、そういう工夫もあったかな。でも「ワシントン州の政治についてのアルバムを作ろう」とか、そういうのではないよ。コンセプトらしいコンセプトはないんだ。

ボビー:とはいえ、まったくランダムというわけでもない。僕たちの曲って色合いやストーリーが同じではないけど、まとまりは重視している。特にこうした短いインスト曲って、曲順に注意を払うことが重要なんだ。何百ものビートを創造して、それらを繋ぎ合わせて上手くまとまった時、初めてゴールドが誕生するんだ。




ー全曲どれも短いですよね。そこに関しては、お互いの合意が?

アントワン:今後は変わりそうだけどね。でも最初の2枚のアルバムに関しては、ブッチャー・ブラウンのアルバム『Grown Folks』の影響を受けているからなんだ。収録曲が全部2分ほどで、ビートと生楽器のライブ演奏とが掛け合わされている。そのアルバムから大いにインスパイアを受けている。あと大所帯バンドとの対極っていうか、ハイ・パルプの方は8〜9分というのが普通にあるから、逆に短い曲って新鮮というか。

ボビー:マッドリブとも共通していると思うんだ。2人があまり同じ音楽を聴かないから、いろんな要素が入っているところもマッドリブに繋がるというか。マッドリブからは大きな影響を受けている。音楽的にも、アプローチ的にも。

アントワン:僕はボビーを通して、彼について学んだ感じかな。



ー昔の曲を再編成して2ndアルバム『SMUG』を作ろうということになった経緯というのは?

ボビー:大半の曲は2016年頃に録音されて、そのまま放置されていたんだ。2019年の1stがけっこう好評だったから、プレスの受けも良くて、YouTubeやBandcampには嬉しいコメントをいっぱい貰って、喜んではいたんだよ。でも、ハイ・パルプの方に本腰を入れてたから、サンキングは後回しというか放置状態になっていた。でも、そのうちコロナになって動きが取れなくなっていた時期に、Antiレコードから契約したいという話が舞い込んできて。「あと未発表の楽曲が半分あるよ」って話をしたら、リリースしようってことになったんだ。付け加えたり、録音しなおした部分もあるけれど、作ってからほぼ5年経っている。ドラムなんて23歳くらいの時に叩いたやつのままなんだ。しかもマイク2本だけで録ってたり(笑)。

アントワン:その間に僕たちも成長したから、5年前の曲を出すのって面白くもあるんだよね。でも今回のツアーでは、3曲ぐらいしか既発曲は演奏してなくて、あとの9曲は新曲なんだ。僕たちの現時点ということだよね。

ーAntiが興味を持ってくれたのは、前作を聴いて、ライブを観てってことですか?

ボビー:ライブはやってなかったけどね(笑)。当時のマネージャーがハイ・パルプとサンキングの両方を掛け持ちしてたから、Antiの人たちにハイ・パルプのついでにサンキングの話もしたら、両方と契約したいってことになって。すごくラッキー。幸運だったよ。

ーAntiは具体的にはどういった役割を担ってくれていますか?

ボビー:今こうして日本にいるのも彼らのおかげだし、Silent Trade(日本側のエージェンシー)とAntiはすごく密に連絡を取り合って仕事をしてくれている。全世界にアルバムを流通させてくれるし、独自のPRチームを持っていたり、経理関係も請け負ってくれる。僕たちのようなニッチなジャンルのバンドにとっては、彼らのもってる知識や情報がすごく助けになるんだ。それに、みんないい人たちだし。



ー次のアルバムの予定は?

アントワン:さっき話した、ライブでやってる新曲全てをニューアルバムに収録する予定。僕たちの向かっている方向性と言えるかな。『SMUG』にはホーンも入っていたけど、新作は、去年ずっと2人だけで引き篭もって制作した。

ボビー:もちろん昔の曲も好きだし、新曲には『SMUG』から引き継いだ要素もあると思うんだ。でもホーンはほとんど入っていなくて、よりエレクトロニック・ミュージック寄り。ビート主導のサウンドになっている。ジャズとは正反対。一般的にはダンス寄りっていうのかな。みんなを踊らせるタイプの音楽だね。

 
 
 
 

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