増加する実録犯罪ドキュメンタリーへの疑問、殺人犯に発言の機会を与えるべきか?

COURTESY OF THE DEVINS FAMILY

2020年3月、キム・デヴィンスさんはFacebook経由でメッセージを受信した。Plum Picturesでプロデューサーをしているイギリス人ローリー・バーカー氏からで、娘のビアンカさんをテーマにしたドキュメンタリーへの出演を依頼する内容だった。

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デヴィンスさんは何年もこうしたメッセージを受信してきた。2019年7月、当時17歳だった娘が惨殺され、その画像がDiscordやInstagramで拡散してからというもの、デヴィンスさんは限られたドキュメンタリーやメディア(本誌も含む)の取材を受け、娘のことや、殺人の凄惨な画像をソーシャルメディアに利用されまいとする活動について語ってきた。ローリングストーン誌が拝見したそのメッセージによると、バーカー氏は「現在世界にはびこるソーシャルメディアや暴力がテーマ」で、暴力的なコンテンツを寛容する「ソーシャルメディア各社の責任を追及する」企画だと説明し、とくに害はないように思えた。

だがデヴィンスさんはすでに別の制作会社と独占契約を結んでいたため、バーカー氏の出演依頼を辞退した。「こういうメッセージは山のように来ます」とデヴィンスさんはローリングストーン誌に語った。「たいていの場合、私たち家族が出演しないとわかると、向こうも諦めます。今回もそうだろうとタカをくくっていました」。

驚いたことに、先週バーカー氏から追加のメッセージが届いた。ドキュメンタリーが完成し、イギリスのChannel 4で放映予定だというのだ――しかも、2022年3月に打診を受けた時の内容とは似ても似つかない内容だった。タイトルもずばり『Interview With a Killer(殺人犯との対話)』で、ビアンカさん殺害で懲役25年の刑に服している男、ブランドン・クラーク受刑囚との長尺インタビューが登場するという。その上、放映日はバーカー氏からメッセージを受け取ってからわずか10日先の11月6日だった(註:ローリングストーン誌はまだドキュメンタリーを確認できていない)。

デヴィンスさんは茫然とした。ドキュメンタリーの内容が当初聞いていた話とかけ離れているだけでなく、クラーク受刑囚とのインタビューが登場するのだ。「加害者ではなく、被害者にフォーカスを当ててほしい」という思いから、デヴィンスさんは他の制作会社の番組に出演する際、クラークの名前をできる限り出さないようにすることを条件にしていた。

有罪判決を受けた犯人にコメントを求めることは報道ではよくある手法だが、犯人の視点をどれだけ盛り込むかは個々のジャーナリストの裁量に大きく委ねられる。犯行が大きく劇的に取り上げられたことから、デヴィンスさんにとっては娘の殺人を報道する際に、犯人の意見に光を当てないことがとくに重要だった。クラークは犯行直後、「悪いな、くそども。他に追っかける相手を探すんだな」というキャプション付きでビアンカさんの遺体の写真をDiscordに投稿した。警察によれば、逮捕直後のクラークは事件を報道したメディア媒体の数を気にしていたという。効果は絶大で、遺体の画像はそこら中に拡散し、今もなおデヴィンスさんの元にはネットトロールから嫌がらせメッセージや脅迫メッセージが届き、当然の報いだと言うコメントに問題の写真が添えられている。

「最初から全部、注目を集めるのが目的でした」とデヴィンスさん。「私たち家族は、犯人の思惑通りに注目を与えたくないんです」。

Akiko Kato

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