26人の児童を乗せたスクールバスが失踪、「チャウチラ誘拐事件」に迫る 米

1976年7月16日、26人の児童と運転手を乗せたデイリーランド・ユニオン校のバスがカリフォルニア州チャウチラ付近で誘拐された(GETTY IMAGES)

スクールバスに乗った26人の子どもたちが不可解な状況で誘拐された実在の事件を、米CNN/Max共同制作の新作ドキュメンタリー『Chowchilla』が検証している。

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物語は世間が驚愕した事件で幕を開ける。1976年、児童26人(と運転手)を乗せたスクールバスが、米カリフォルニア州中部ののどかな町チャウチラで乗っ取られた。誘拐された被害者は2台のワゴン車に移され、バスの先導でさびれた採石場へと連れていかれ、マットレスが敷き詰められた地下室で生き埋め状態にされた。こんな町では到底ありえない出来事だった。

70年代のカリフォルニアはゾディアック殺人事件に始まり、パトリシア・ハースト誘拐事件、ジム・ジョーンズ集団自殺など不吉な事件が相次いだ。こうした狂気一直線の物語と比べると、効果的かつ洗練された手法で語られるCNN/Maxの共同制作ドキュメンタリー『Chowchilla』の物語は、そこまで大ごとではなかった。だが共感度と奥深さという点では決して引けを取らない。幼少期のトラウマがもたらす影響や罪と罰が如実に語られる一方、数人の逞しい子どもの姿に胸を打たれる。そのうち14歳の少年は仲間を暗闇から救い出したが、しかるべき評価を与えられることはなかった。

白のカウボーイハットを被ったマイク・マーシャルさんはロデオ愛について、そして47年前に起きた恐怖の36時間を淡々と語った。自画自賛するタイプではないが、彼こそが土をかき分け、地中に沈んでいく27フィートのワゴン車から這い出した人物だ。当時は誰にも功績を認められなかった。バスの運転手で、現場にいた唯一の成人エド・レイ氏がほとんど世間の称賛を独り占めした。だが今や大人になった他の子どもたちは、マーシャルさんこそが英雄だと断言する。

その後マーシャルさんは辛い経験が頭から離れず、アルコールと薬物に溺れた。バスに乗っていた他の子どもたちも同様だった。なかなか消えない悪夢。猜疑心。無感情。薬と酒。当時チャウチラ事件の子どもたちを診察したトラウマ専門の精神科医レノール・C・テール氏は、ある意味彼らは初めてのケースだったとインタビューで語っている。当時、幼少期のトラウマの犠牲者についての研究は今ほど成熟していなかった。現在なら、たとえば銃乱射事件が発生すれば、カウンセラーがすぐに飛んでくる。だが当時は、地球上で一番ハッピーな場所に連れて行けば治るだろうとの考えから、子どもたちはライオンズクラブの計らいでディズニーランドに連れていかれた。

Akiko Kato

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