加藤登紀子が語る、訳詞で表現してきたシャンソンの奥深さ

懐かしき恋人の歌 / 加藤登紀子

田家:「懐かしき恋人たちの歌」と「懐かしき恋人の歌」はかなり違いますもんね。

加藤:違いますよね。これは特定の人だから。私も訳詞家をやるようになったんだけど、何十年もこうやって別れそうになったけど、今はあなたと絶対に別れない、そういう歌に私は訳している。だけど、中には別れていってしまう役として歌っている人もいるんです。どういうふうに解釈してそうなるのか分からないけど、ジュリエット・グレコが歌っていた歌詞をそういうふうに理解したので、たった一人の人とこんなに何年もなんだかんだ言いながら一緒にいるのねってことを歌にしたんですよね。

田家:それがシャンソンの奥深さなのかもしれません。

行かないで / ジャック・ブレル

田家:ジャック・ブレルの2曲目「行かないで」。これはご存じの方多いでしょうね。

加藤:多いですね。英語でも歌われたので。ロッド・マッケンとか、ジャック・ブレルを英語にして歌ったアメリカ人もいるんですね。結構ロッド・マッケンは私も好きでしたね。

田家:これはダスティ・スプリングフィールドとかウォーカー・ブラザーズのスコット・ウォーカーが大ヒットさせてますもんね。

加藤:そうです。世界的なスタンダードになっているんですね。

田家:この曲も男性側の歌なんでしょうが。

加藤:そうです、そうです。どちらかと言うと女性の歌手の人たちは男が行ってしまうのに対して、お願いだから行かないでって感じの歌にしているんですよね。でも、私は女々しいのは男だと思っているので(笑)。女としてお願いだから行かないでって歌詞を歌いたくなかったんですよ。どっちかと言うと、徹底的にダメになっちゃうやつ。恋人に捨てられて。メロメロになっちゃっている男がここに描かれていることを魅力に感じて。これから聴いていただく歌詞は私は極力ジャック・ブレルに書いた詞に即して訳しているつもりです。最後あなたの影になってもいいから僕は離れたくないというような男の心情を書いている。

行かないで / 加藤登紀子

田家:これは来週のテーマでもあるんですけれども、訳詞が単に歌詞を訳すということではなくて1つのどう解釈したのかという作詞に近いものがあるんですね。

加藤:これ最後に行っていいよって言っているんですよね。わりといろいろな人が行かないでのまま終わるんです。行かないでちょうだいって言い続けるっていうんですかね。これは行かないでなんでだけど、最後はいいよ行って、もう終わりにしようって言っているところがすごいなと思ってその詞にしているんですけどね。

田家:私にとってはこういう歌なのよっていう。

Rolling Stone Japan 編集部

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