有元キイチが語る、生死の境界線、地元・多摩の原風景と向き合い生み出した金字塔

──どうして、本作を作るにあたって自分のルーツと向き合おうと思ったんでしょう。

有元:最初に忘れ物をすると、遠くに行けば行くほど面倒くさくなるというか。例えば、財布を忘れて駅まで来た時に、戻るのって面倒じゃないですか? それと同じで、最初の作品を作るにあたっても、忘れ物がないようにしようという感覚があったんです。正常な積み木をしていきたいという感じに近いです。

──2020年ぐらいから曲を作り始めたとおっしゃっていましたが、本作の4曲を作った時期はいつくらいのことなんでしょう?

有元:「多摩ナンバー」と「未来」は結構最近の曲で、一番初めに作ったのが「銀座線」です。最初は「Was」という仮タイトルだったかな。その次に三浦透子さんにフィーチャリングで参加してもらった「聞いてたの?」の原型を作って、次に「野猿街道」を作りました。「野猿街道」のデモの仮タイトルは「歩こう」だったかな。

──「野猿街道」も「銀座線」も、アンビエントに近いテイストを感じる楽曲ですが、どうして最初に作った曲がこういうタイプの曲になっていったんでしょう?

有元:最初は結構太いドラムが入っていたんです。時間が経って聴いてみたら、今だったら古いんじゃないかと感じるようになって。ミックスで手をつけるにあたって、デモからかなり引き算して今の状態になってるんですが、楽器が1番生き生きしてるところまで引き算して、かつ、リズムが自分的に面白いと思えるところまでやっていったんです。

──最初は、もっと輪郭のある楽曲だったんですね。

有元:形がしっかりしてましたね。ただ、柱はしっかりしていたんですけど、もっと有機的にして、軸があまり見えない感じにしたくなって。そういうアレンジになっています。

──原型から引き算したり、アレンジするプロセスに割と時間をかけている?

有元:たくさん時間をかけました。それこそ3、4年前ぐらいに録ったものからビートを全部抜くってなると、明らかに聴き心地が悪くなるんですよ。軸ありきで家が建っているので、その軸を取っちゃうと家の粗が見えるみたいな。そうなったとき、粗の部分を録り直して、みたいな作業を重ねていったんです。

──今作に参加されている、プレイヤーの方たちはどういう方なんでしょう?

有元:ほぼ全員、大学のジャズ研の先輩と同期ですね。会社員をやりながらテクニックを磨き続けている人が多い気がします。それかプロになっている人で。

──キイチさんの周りにはプロのミュージシャンも多くいらっしゃると思うんですけど、どうして今回、昔からの先輩だったり同期の方と一緒にやろうと思ったんですか?

有元:今作は、過去と向き合う作品だと思っていて。そういう意味で居心地がいい音って、彼らが出す音だったんですよね。それこそ弾きたいって言ってくれるミュージシャンの人もいたんですけど、今作は旧知のメンバーと臨みました。

──1曲目のタイトルにもなっている「野猿街道」は、実際にある幹線道路なんですよね。どういう場所なんでしょう。

有元:小さい頃も、大学になって友達と飲む時も、いつも通っていた道なんです。おばあちゃんの車で送り迎えしてもらっていた記憶も色濃くあります。保育園とかの時だと思うんですけど、どこかまで送ってもらっていたような身近な存在です。

──曲の中の歌詞に「暴れん坊将軍」って単語が出てきてびっくりしたんですけど、リリックは、どういうところから着想して書かれているんでしょう?

有元:今作は、当てる人を絞っていて。「野縁街道」はおばあちゃんに向けて書いてますね。家でひたすら「暴れん坊将軍」を見てるんですよ。何シーズン目だ?ってくらい永遠に見れるんだろうなって。曲自体、ちょっとSFみたいな感じにしたいていうのもあったんですけど、蓋を開けると意外と真面目な楽曲に仕上がっているんじゃないかと思います。

──過去に向かい合った時に、「銀座線」ってタイトルの曲が出てくるのも不思議ですね。

有元:なんでなんでしょうね? 全体として言えるんですけど、自分の頭を使って歌詞を書くと後々嫌になることに気づいたというか。口が勝手に言った言葉をメモみたいに録音して作ってく方法でできた曲なので、なんでそう言ったか自分でわからないことが多いんです。

Rolling Stone Japan 編集部

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