有元キイチが語る、生死の境界線、地元・多摩の原風景と向き合い生み出した金字塔

──本作で自分のルーツと向かい合うことで見えてきたものはありますか?

ありますね。消費物として作ってないのに、すごくエネルギーに満ちているというか、そういう作品を作ってみたいです。これを作ったことによって、自分のマインドの底を知った感じがするんすよね。死とも隣り合わせだと思ったというか。

──マインドの底というのは?

有元:配達をしていたとき、雪が降ってたんですけど、僕これ死んだな、生きて帰れないぞみたいなことがあって。それはなぜかと言うと、原付がスリップしまくって、転びまくって。iPhoneをマップを見る用に首にぶら下げてたんですけど、それが凍結して誤作動で2021年ぐらいのこのEPの初期のデモが流れてきたんです。その曲の声が死んでる人が歌ってるように聴こえちゃったんですよ。自分が完全に死んだみたいな。ていうことは、今ここはどこなんだ?みたいな感覚になって。で、スマホが本当にバグって、「キイチを削除しますか?」というポップアップが出たんです。それは、初期設定に戻すかどうかって表示だったんですけど、その瞬間が自分にとっての底でした。同時に、全部消えちゃうより、生きるために必要なことを1つ1つ積み重ねていきたいと思って。それが、本作を出すにあたってすごく連動しているというか。

──それはいつぐらいの話なんですか?

有元:それが、2023年の1月とかですね。

──ちょうど、1年前ぐらい。めちゃめちゃ衝撃的な話ですね。

有元:すごく怖かったですね。そういう時って、本当に周りから人がいなくなるんですよね。逆に、今録った声とかは、生き物の声に聞こえる気がする。そんな時期を経てできたんです。

──三宅さんは、当時キイチさんの様子をどう見ていましたか?

三宅:当時、彼はすごくハードな仕事をしてたので。今よりも痩せていましたし、肉体的にはかなり疲弊していたなと思います。ただ、僕が見ている部分においては、音楽家として研ぎ澄まされていく感じもあって。結果的に最後はすごくニュートラルなマインドでこのEPを作っていけたのが良かったんだと思うんですよね。

有元:それはよかったですね。あの時見ていた世界と今の世界が全く別なので。曇り切っていた。繊細すぎるみたいな、なんか全部悪い方向にとらえちゃうみたいな。

三宅:これはキイチとも冗談みたいに話していることなんですけど。「銀座線」のサビのメロディが、NewJeansの「Ditto」のサビと、かなり近い旋律なんですよね。「銀座線」は2020年にはデモができていたんですが、僕もキイチに指摘されて、めっちゃ似てるね!ってなったんですよ。最初はその偶然に笑っていただけだったけど、こじつけるわけじゃないけど、キイチが研ぎ澄まされた感覚で音楽を作ってる時に、NewJeansのプロデューサーのミン・ヒジン氏や「Ditto」を手掛けた250(イオゴン)氏とこの時代におけるポップスの普遍性というところで通じ合ったのであれば、そういうことを夢想できたらそれは最高だなと思ったんです。

有元:この曲は本当に頭でメロディを書いてなくて。浮かんできて、速攻で録っているんです。

三宅:無意識に時代の旋律みたいなものをキャッチしていたら素敵だなって。NewJeansもK-POPにおける普遍性を問うカウンター意識を持って生まれたグループだと思うんです。「Ditto」の岩井俊二さん的なMVの世界観も踏まえて、消費に抗うノスタルジアを更新するメロディを持っている曲だよなと思っていて。傍から見てて、そういう一致があったら面白いなって思いましたね。

有元:ちなみに「銀座線」は自宅のピアノでレコーディングしたんですよ。実家のピアノ。なので調律が狂っているのもおもしろいポイントかなと思います。

──この先、ライブ活動は考えてますか?

有元:今、すごくライブをしたくて。あまり見たことない形態のライブをやりたいなと思っていて。まだ完璧には見えてないんですけど、とにかくライブはやりたいですね。

──すでに未発表の楽曲もあるんですか?

有元:デモはめちゃくちゃあるんですけど、今、完成している楽曲はないですね。なので、新たに作っていこうと思ってます。



<リリース情報>



有元キイチ
EP『Tama,Tokyo』
https://FRIENDSHIP.lnk.to/Tama_Tokyo

■有元キイチ
1995年生まれ、東京都多摩市出身の音楽家。
多様なジャンルを横断するヒップホップグループ、ODD Foot Worksのギター/サウンドプロデューサーとして2017年にデビュー。
以降、グループでは独創的かつ大衆性にも富んだ音楽像を担うキーパーソンとなり、個人としては佐藤千亜妃(きのこ帝国)のサウンドプロデュースを手がけるなどコンポーザー/プロデューサーとしても活躍の幅を広げ、2021年12月には有元キイチ名義で初のソロライブを開催。深淵なメロウネスをたたえた未発表の新曲群を体現しソロアーティストとしての新たな可能性を提示した。
2022年3月、三浦透子「私は貴方」の作詞、作曲、編曲及びサウンドプロデュースを手がけ、この楽曲は各方面で称賛された。
そして、2023年4月にシンガーソングライターとしてM1「聞いてたの? feat. 三浦透子」とM2「ありがと」を収録した1stシングル「0110」をリリースした。

https://x.com/keacharimoto?s=20
https://www.instagram.com/keacharimoto/

Rolling Stone Japan 編集部

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