有元キイチが語る、生死の境界線、地元・多摩の原風景と向き合い生み出した金字塔

──「多摩ナンバー」と「未来」は最近の曲といっていましたが、この2曲はどのように生まれたんでしょう?

有元:「未来」は、「聞いてたの?feat.三浦透子」を出した後ぐらいに作った曲なんですけど、全く頭を使わずに、夜目覚めて録音ボタンを押して歌って録っていて。自分を隠し撮りしたみたいな感じのデモがスタートになっています。最初はピアノと声だけで。ベースの初見元基さんとギターの馬場貴博さんと別の曲を作っていたときに、こういう曲もあるんですよねって聴かせたら、2人とも、めっちゃいいじゃん! これ楽器を入れさせてよ!みたいな感じになって。なので、2人ともほぼ1発録りのテイクなんですよ。そのあと2、3発録ったんですけどあまり良くなくて。1回目だけが良かった。音楽をやっていて、それってすごいロマンというか。頭を使って使ってやっとできる曲じゃなく、サクっと仕上がっちゃう曲のロマンを提示する曲になっていると思います。

──じゃあ、このギター、ベースの音はセッションの中で生まれた即興的なもの?

有元:そうです。声に合わせてセッションで作っていて。この曲を知らない状態で弾いてもらったから入口からギターのキーが違う音から始まっているんですけど、それもすごく好きで。

──この4曲の中ではリード曲の「多摩ナンバー」が1番キャッチーですね。

有元:「多摩ナンバー」が最新の曲ですね。この曲だけ、ドラムの小林隆大とベースの佐藤太司とピアノの坂本龍司とミックスエンジニアの佐藤慎太郎と都内のスタジオを点々としながらレコーディングしていて。ポップスの作り方としても正しいやり方で作った曲です。ドラムは友人のミュージシャンのハウススタジオを借りて録音しました。誰が聴いてもいいと思えるような名曲が1曲は欲しいなと思っていて、それは絶対作ろうと思って何度もトライしてできました。この曲は、デモの時からDAWで作ってたんですけど、なんかいいなと思って。デモから真面目にスタジオ作品として作るための工程を踏んでいきましたね。

──他の記事で拝見しましたが、三浦透子さんの「私は貴方」を作ったことが、キイチさんの音楽家としてのひとつターニングポイントになっているんですよね?



有元:ターニングポイントでしたね。リリースの順序は『スターウォーズ』ぐらいめちゃくちゃになってるんですけど(笑)、「私は貴方」は、今回のEPを全部作り終えた後依頼を受けてできた曲で。降ってきてた感覚が強い曲なんです。単語とメロディーとリズム。全部が振ってきたまま入れられている感覚がある。

──頭で考える以上に、感覚的なものがそのままアウトプットできていると。

有元:原型になっているデモは全然違くて。「私は貴方」ってリズムとメロディは残ってるんですけど、結構シューゲイザーというかノイズギターみたいな中で叫んでる感じだったんです。ただ、もっと綺麗に、ちゃんと音源として聞かせるようにしようってなるぐらい、言葉というかメロディが強かったんだなって思っていて。

──そういう意味でいくと、「未来」も割と近いというか。

有元:これはちょっと特殊です。完全に最初のインスピレーションのままいけてる感じです。

──ちなみに、今回のアートワークも多摩で撮られているんですか?

有元:これは高井戸で友人のKazusa(Film Director/Digital Artist)に撮ってもらいました。ゴミ収集の煙突みたいな塔があって、そこで撮りました。以前、配達の仕事をしていて、塔の周りをずっと回ってたんです。それで、塔がすごく気に入って、絶対ジャケットにしたいなあと思っていて。前からずっと「写真に収められちゃうよ」って、塔に向かって言ってました(笑)。

──自分のルーツと向き合って作った作品を、いま客観的に聴いてどう感じますか?

有元:エゴが抜けるぐらいまで作り直したので、出来終わった時と今とあまり変わってないのかもしれないです。なんて言うんだろうな。消費される前提で作っていない作品なんですけど、それがすごくいいことだなと思っていて。外側の世界にアプローチしようと思って、マーケティング的に曲を作る機会もあるんですけど、逆に内側と向き合う作品って、今の時代とあってるんじゃないかなと思っていて。そういう意味で、まだ自分でも完璧にはこの作品を見れてないところもあるんですけど、今後、この作品が自分のライバルになるんじゃないかって感覚に近いというか。

──消費されない作品性っていう意味では、NFTで映像作品をリリースされたのもその一環なんでしょうか?

有元:そうですね。自分の土みたいな場所で活動していくのって、すごく大事なことだなと思っていて。そういう仕組みがもっとできてくるといいのにと思いますね。作り手にもちゃんとお金が分配される世界ができるといいなって。

Rolling Stone Japan 編集部

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