クーラ・シェイカーが語る爆発的なバンド・マジックと過去・現在・未来、日本への特別な想い

 
子供たちとのケミストリー、日本への特別な想い

─「Idon’twannapaymytaxes」は昨年の日本公演でも演奏しましたが、この曲は息子さんのアイディアを拝借して作ったそうですね。何かピンとくるものを感じた?

クリスピアン:確か息子が10歳くらいの頃だったと思うけど、いきなりギターを手に取って、あの曲の歌い出しを歌いながらかき鳴らしたんだ。セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズみたいにダダダダダダダダ……と弾いていたよ。で、“♬I don’t wanna pay my taxes〜”と歌った。それを見て「これは歌詞になる! 曲ができるぞ!」と思ったんだ。息子は「父さん、僕にお金払ってくれなくちゃ」なんて言っていたけど(笑)。

─(笑)で、お金は払ったんですか。

クリスピアン:クレジットに名前を入れないといけなかった(笑)。もし僕がびた一文やらないと言ったら、裁判でも起こしかねないくらい必死だったからね。ある程度の歳になると、子供たちが親の鏡写しになり始めるんだよね。子供たちを通じて、人生のイベントを再体験するような感じ。初めて音楽を聴いた時とか、初めて音楽を演奏し始めた時とか。運よく家で子供たちと過ごす時間を持てると、そこに子供たちとのケミストリーが生まれる。運よく一緒にクリエイティブな気分になれると、そこにケミストリーが生まれて、自分のクリエイティブ人生の一部になってくれるんだ。

─タックス(税金)についての歌を聴くと、思い出すのは「Taxman」を歌ったビートルズですが。最近AIの技術を使って彼らがリリースした「Now And Then」という曲について、あなたはどう感じたんでしょう? いい曲ですけど、ヴィンテージサウンドを愛するあなたが聞いたら、ああいう曲の作り方をどう思うかな……と、ふと思って。

クリスピアン:どうだろうね。ジョージ(・ハリスン)やジョン(・レノン)だったらどう思うか気になるな。彼らは何て言うんだろう、という気持ちがよぎる。僕たちは活動初期にジャイルズ・マーティンと仕事したことがあるし、今でも彼とは時々会うことがある。あれは厳密にはAIというよりある種のテクノロジーだよね。CIAとかの情報機関が、人の声を抽出して聴くために使っているやつ。ロックンロールがああいう技術を使うというのも、すごく皮肉だよね。僕は結構悲しい気持ちになった。ビートルズの曲でこんな気持ちになっていいのかわからないけど。でも、人々が「気に入った」と言うのも理解できる。ただ、僕自身は昔の名盤があればハッピーだな。新しい曲は必要ないや(笑)。

─曲そのものは良かったですか?

クリスピアン:(少し間を置いて)彼らの全盛期をとらえてはいないと思うね。ということにしておこう。


Photo by Nicole Frobusch

─クーラ・シェイカーは昔ながらの手法で音楽を作っていて、それでも再生と更新を続けているので、そこにわれわれファンは惹かれるのだと思います。ところで本作は「Happy Birthday」をはじめ、ジェイが復帰したマジックが随所で効いているアルバムでもありますね。他のキーボードプレイヤーと、彼との違いを分かりやすく言うと、どんなところが魅力?

クリスピアン:そうだね……ジェイはいつだってキャラクターをもたらしてくれる。あいつ自身が個性的なキャラクターの持ち主だからね。一番大切なのは自分らしくいられることだと思うんだ。テクニックや音楽のルールを身につけるのもいいけど、それらは自己表現力に貢献するものでないといけない。自分のキャラクターを表現して、オリジナルでいるためにね。あいつはオリジナルで、ユーモアのセンスが狂っていて、頭の回転がとても速くて、他の人みたいな考え方をしないんだ。すごくオープンマインドで、独立心があって、クールな人間だよ。それがあいつのプレイに現れている。

僕たちがギター主導型の3ピースのラフを作ると、あいつは3人を糊でつなぎ合わせてくれるような感じなんだ。隙間をすべて埋めてくれる。あいつのカラーが音全体をまとめてくれるんだ。それが、ジェイの与えてくれるとてもユニークな要素だね。まさに糊だよ。蛍光色のサイケデリックな、催眠作用のある糊(笑)。と言いつつ、一番大切な原料はあいつのキャラクターだね。ミュージシャンたちが集まると、ケミストリーを必要とするものはみんなそうだと思うけど、まずはお互いをオーディエンスとしてプレイするんだ。全盛期のジョン・レノンもそうだったと思う。彼はポール・マッカートニーを感動させようとしたんだ。そして全盛期のポールもジョンを感動させようとした。そうして高め合っていったんだ。そのケミストリーこそがすべてなんだ。


左からジェイ・ダーリントン、クリスピアン・ミルズ 2023年2月13日、東京・恵比寿ガーデンホールにて(Photo by Kazumichi Kokei)

─クーラ・シェイカーも4人で高め合って素晴らしい音楽を作っているところがいいですね。

クリスピアン:僕たちの音楽は4人の合計だからね。ファンやオーディエンスもその一部だよ。アルバムを作っても誰にも聴いてもらえないと思ったら、同じような興奮は生まれない。これを聴いて気に入ってくれる人がいるだろうと思えると、その思いがまた原料になるんだ。

─次の再来日では僕らもいい「原料」になりたいところです。今回はどんなライブが楽しめそうですか?

クリスピアン:まだタップダンスをするつもりはないよ(笑)。『Natural Magick』のツアーだから、新しいタイプのショウになる。すごくエキサイティングなものになるよ。何といっても日本はこのツアーの最初の目的地だからね。アルバムの「人生」がスタートするのにふさわしい場所なんだ。一部以前テストした曲もあるけど、アルバム全体をフィーチャーするのは今回が初めてだから。


2023年2月13日、東京・恵比寿ガーデンホールにて(Photo by Kazumichi Kokei)

─ところで、あなたたちをきっかけにして、インドを訪れて観光するファンも少なくないと思います。そういう人たちには、どんなスポットをすすめたいですか?

クリスピアン:インドは急速に変化しているからね。経済も超音速的に成長中だ。すごいものを見ることになると思うよ。ここ10年の間に、僕ですら分からなくなったところがいろいろあるんだ。でもヒマラヤ山脈、寺院、ガンジス川……歴史とマジックの場所は変わらない。1000年経ってもあり続けると思うよ。何が起こってもね。

─僕(筆者の荒野政寿)はビートルズが訪れたリシケシュに1週間ほど泊ってから、ニューデリーで楽器店のリキ・ラームに行ってタブラやシタールをチェックしました。

クリスピアン:リキ・ラームに行ったなんてすごいね! 君が着てるTシャツ、その写真も現地で見た憶えがあるよ。

─はい。1966年にポールとジョージがリキ・ラームを訪れたときの写真です。

クリスピアン:リキ・ラームは聖地だよね。あそこは歴史がオーバーラップする場所なんだ……。インドでは、自分のアドベンチャーを自分でコントロールできるなんて考えは手放したほうがいいね。インドに行くと、何が起こるかなんて自分にはコントロールできないことなんだと思い知らされる。ものすごく流れが強いから(笑)。その流れに身を任せていかないといけない。何かにこだわろうとしないで、何が起こってもオープンな気持ちになって受け容れることだね。そうしたらクリシュナ神が導いてくれるよ(笑)。




クーラ・シェイカー
『Natural Magick | ナチュラル・マジック』
2024年2月2日(金)発売
①日本独自企画完全生産限定盤
●特製レンチキュラー・マウスパッド付属:4,400円(税抜価格¥4,000)
②通常盤:2,750円(税抜価格¥2,500)
[両形態共通特典]
・日本盤のみのボーナス・トラック「朝に会おう(ボブ・ディラン・カバー曲)」収録
・クリスピアン(vo,g)による各曲解説付
・高品質Blue-spec CD2仕様
再生・購入:https://smji.lnk.to/KulaShakerNaturalMagickRS

KULA SHAKER JAPAN TOUR 2024
2024年2月13日(火)大阪BIGCAT
2024年2月14日(水)名古屋ダイアモンドホール
2024年2月15日(木)EXシアター六本木
公演詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/kula-shaker2024/

Translated by Sachiko Yasue

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE