クイーン+アダム・ランバート来日公演を総括 大合唱と人間愛に満ちた集大成的な一夜

Photo by Ryota Mori

クイーン+アダム・ランバートによる「The Rhapsody Tour」の一環として開催された、日本公演史上最大級となる4都市5公演のドームツアーが大盛況のうちに閉幕。荒野政寿(シンコーミュージック)による、最終日の2月14日・東京ドーム公演の本誌独自ライブレポートをお届けする。(※ライブ写真は2月13日撮影)


SF的オープニングに見る「新たな解釈」

1992年4月20日、ウェンブリー・スタジアムで開催されたフレディ・マーキュリー追悼コンサートの映像は壮観の一語だった。クイーンの残された3人──ブライアン・メイ、ロジャー・テイラー、ジョン・ディーコンをバックに、ロバート・プラント、ロジャー・ダルトリー、エルトン・ジョン、イアン・ハンターといった先輩たちから、ジェームス・ヘットフィールド、アクセル・ローズらクイーンの子供たち、そしてライザ・ミネリまでもがリード・ボーカルを務めた夢の一夜。中でもアニー・レノックス&デヴィッド・ボウイがデュエットした「アンダー・プレッシャー」と、ジョージ・マイケルのはまり具合は群を抜いていた。ジョージ・マイケルに至っては、クイーンへの加入説まで囁かれたほどだ。

その後、元フリー~バッド・カンパニーのポール・ロジャースと組んだ2000年代のクイーンに、ジョン・ディーコンの姿はなかった。シンガーとして圧倒的な技量を持つポール・ロジャースだが、彼の背景にあるのはブルース。多種多様なゲスト・ボーカリストによって成り立っていたフレディ追悼コンサートの後に触れると、そのステージはどうしても幅が狭いものに感じられたし、スーパー・セッションとしては超一級、しかし“クイーンのライブ”とは別物、と思わざるを得なかった。のちにポール・ロジャース自身も、クイーンとは音楽性がかけ離れていると感じたことを認めている。

ポール・ロジャースほどの名シンガーでも荷が重かった看板を、いったい誰が背負えるのか……恐らく多くのファンがそう思っていたところに、救世主が出現する。2009年、オーディション番組『アメリカン・アイドル』での劇的な出会いをきっかけに、クイーン+アダム・ランバートが発足。ヘッドライナーを飾った2014年8月の「SUMMER SONIC 2014」でのショウは、フレディの物真似を敢えてせず、しかし楽曲のイメージは決して損ねない……という難しいさじ加減で新旧ファンを楽しませる内容になっていた。フレディ追悼コンサートで何人ものシンガーが違った角度から挑んだアプローチを、全てとは言わないまでも、複数のチャンネルで包括的に表現できるアダム・ランバートは、クイーン・ファンのデリケートな心理を考えに考え抜いてツアーに臨んだはず。ファンの間で“QAL”という略称が定着していったことも、自身の個性を保ったまま最良の形でこのプロジェクトを成立させようと試行錯誤してきたアダムへの敬意が感じられた。一方的にスターがエンターテインメントを提供する形ではなく双方向の関係、ファンとの“交歓”がクイーン+アダム・ランバートを10年以上も継続させてきたのでは、と筆者は考えている。


Photo by Ryota Mori

2018年に映画『ボヘミアン・ラプソディ』が公開されて大ヒット、社会現象を巻き起こした後の「The Rhapsody Tour」は、QALに新たな課題をもたらした。映画がきっかけで新たに加わってきたビギナーたちを満足させながら、従来のクイーン・ファンも唸らせるショウとはどんなものか……それを実現させるために練りに練った演出、構成が「The Rhapsody Tour」を特別なものにしている。2019年からスタートしたこのツアーは、2020年1月にさいたまスーパーアリーナ、京セラドーム大阪、ナゴヤドームでの公演が実現。コロナ禍を挟んで中断した時期もあったが、世界各国を巡ってきたこの長いツアーは、締め括りに再び日本へと戻ってきた。2月4日のバンテリンドーム ナゴヤを皮切りに、京セラドーム大阪、札幌ドーム、東京ドームへと続く4大ドームツアー。北海道での公演は42年ぶりとあって熱烈な歓迎を受け、さっぽろ雪まつりにクイーンのエンブレムと『世界に捧ぐ』のジャケットでお馴染みのロボット(通称フランク)をかたどった巨大な雪像が登場。会場にロジャーとアダムもお忍びで駆けつけ、話題を呼んだ。

そして迎えたジャパン・ツアー最終日、2月14日の東京ドーム公演。開演予定時刻の19時から5分ほど過ぎたところで、客入れ中のBGMがシンセ音に変わった。そこから焦らしまくるほど約7~8分、すでにほぼ総立ち状態のアリーナが、暗転と同時に大歓声に包まれる。スクリーンに映し出されたのは、巨大な機械と量産されたロボットのイメージ。1984年のアルバム『ザ・ワークス』から、ロジャー・テイラーとブライアン・メイが共作した「マシーン・ワールド」が、同じアルバムに収められていたロジャー作の「RADIO GAGA」へと続くSF的なオープニングだ。

スクリーンには、「RADIO GAGA」のMVでも引用されていたフリッツ・ラング監督のサイレント映画『メトロポリス』のロボットも登場、冒頭から過去と未来が結びつく。1984年にジョルジオ・モロダーのプロデュースで再編集された『メトロポリス』のサウンドトラックには、フレディ・マーキュリーが「ラヴ・キルズ」を提供。それが縁でクイーンとは切っても切れない映画になった。「マシーン・ワールド」の歌詞に“ランダム・アクセス・メモリー”が出てくるのも見逃せない。84年当時は今ほど一般的ではなかったRAMを指すその言葉は、ジョルジオ・モロダーをフィーチャーしたダフト・パンクの4枚目のアルバムのタイトルにもなった。ロボ声を用いた「マシーン・ワールド」自体、早すぎるダフト・パンクといった感じのエレクトロ風ロックだし、モロダーの片腕で『ザ・ゲーム』以降のアルバムを手がけてきたラインハルト・マックがバンドと共同プロデュースしている。こういう埋もれていたアルバム・トラックを掘り起こして新たな解釈を施し、攻めた演出でスタートしてくれたことが何よりうれしい。

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