サーヤが語る「礼賛」だから表現できる自分らしさ、川谷絵音と共鳴し合うポップな感性

『PEAK TIME』の「前向きに捉え直す」モード

―『PEAK TIME』に収められている6曲の方向性に関しては、メンバーの中でどんなやりとりがありましたか?

サーヤ:今回の曲は(ライブ活動を通じて)現場の温度感を見たことが大きくて、「ちゃんと乗れる曲をもっと増やさなきゃ」っていうのをみんなで言って、「むちっ」とか「スケベなだけで金がない」とかはそういう感じですね。あとはこれまでわりとダウナーな曲が多かったので、ちゃんと自分の明るい部分も作ろうというので、「PEAK TIME」はガラッと明るくできたらいいなって。内省的なやつよりは今はそっちのモードというか、「前向きに捉え直す」っていうのが全体を通してありつつ、いい意味でのピークと悪い意味でのピークとどっちも感じ取れるようにはしたくて。だから最初が「PEAK TIME」ですけど、最後が「生活」っていう、両面ある感じにはなったなと思います。



ー歌詞だけを見ると、やっぱり『WHOOPEE』はまだダウナーな時期だったことが表れていますよね。でもその後に「スケベなだけで金がない」が配信されて、「あ、モードが変わったんだな」っていうのははっきりと感じました。

サーヤ:「スケベなだけで金がない」を作ったことで、みんなのハードルがちょっと下がったというか、「これぐらいちょけてていいよね」みたいなのがあって、それ以降の曲作りが少し変わってきて。楽器隊の人たちはどんなにめちゃくちゃになっても形にしてくれるスキルがすごくて、「ちょけてるんだけどかっこいい」ってなる人たちだから、歌詞もその感じがいいなっていうのはあって、だから方向性は結構メンバーの雰囲気で決まってる感じかもしれないです。今回のジャケもそうなんですけど、あんまりキメに行かない方がかっこいい。普通にゲラゲラしてるときにできたものが、自分の中で「よかった」ってなることが多かったから、そういう空気が反映されてるかなって。

ー「むちっ」みたいなセクシャルな題材も以前はなかったですしね。

サーヤ:「とっつきやすくして言いたいことを言う」みたいなのが自分の中でやりやすいなって気づいたんですよね。「むちっ」も「エッチな感じにしましょう」とか言って作ったけど、実際は「考え方まで華奢になってる人が多いな」みたいなことを感じてて、「もっと欲に向きあったらいいのに」っていうのを、堅苦しくない言い方で言いたいなと思ったし、「スケベなだけで金がない」も、「こういう人たちって情けないよね」っていうのを、この形で出すのが一番スッて入りそうだなって。だから、実はめちゃくちゃクサしたい部分があったり、言いたいことがあったりっていうのはありますね。

―世の中を見て思うことを、どう説教くさくなく表現するか。

サーヤ:ネタを考えてるときもそれはすごいあったりします。嫌なことは全部コントに消化していく、みたいな。「こういう人って嫌じゃないですか」と言うよりは、そういう人を演じて何かした方が、メッセージ性は強くなる。それに近い感覚ですね。「むちっ」に関しては、SNSを見てても「控えめがいい」「消極性こそいい」みたいな時代だなと思って。上手くいってる人の足はすぐに引っ張られるから、負け芸してる方が上手くいく、みたいなのが雰囲気として多いなと思って、そういうところから脱したい時期だったなと思いますね。私自身もこの3年間は……我慢じゃないけど、あんまり手の内を明かさないようにしちゃってたけど、「生活」が書けたことで価値観が変わったなと思うので、また書くことも変わってくるのかなと思います。

―あんまり切り売りしちゃうとそれはそれで消費しちゃうと思うし、「生活」みたいな曲もあれば、その一方で「スケベなだけで金がない」みたいな曲もあるっていう、そのバランス感がいいんでしょうね。

サーヤ:前にDJ松永さんにも言われました(笑)。「リアルだけでいったら本当に人は狂うからよくない。サーヤ気をつけてね」みたいな。それは本当にそうだなって。

ー比べるのも変だけど、テイラー・スウィフトはすごいですよね(※取材日がちょうどスーパーボウルの当日)。

サーヤ:アリアナ・グランデとかもそうだけど、元カレの名前しか出てこない曲とかすごいですよね。ロウソクみたいに「全部自分の燃料で行くんだ」っていう(笑)。


Photo by Maciej Kucia

「自分が素直になればなるほど聴いてくれる」

―表題曲の「PEAK TIME」は曲調も含めて現在の前向きなモードが反映されていますね。

サーヤ:そうですね。ずっと自分はめちゃくちゃ幸せだなっていう感覚があるから、何をしてても基本上がり下がりが大きくない感じで、ピークタイムが続いているような感覚がここ数年大きかったので、サビではそれを率直に歌ってる感じがします。

―〈終わらない PEAK TIME〉と歌いつつ、〈いつも通りのこのプレースタイル で敵わないような例外こそが楽しいでしょ〉とも歌っているように、そのピークタイムはチャレンジを続けているからこそ得られるものだというメッセージにもなっているなと。

サーヤ:音楽もお芝居もそうですし、ここ最近いろんな仕事をしたから、そのジャンルの中で「外部から来た人間として戦わなきゃいけない」っていうのがすごく多かったんですよね。「例外的な動きをしなきゃいけない」みたいなのが多かったけど、でもそれもやっていくうちにどんどん楽しくなっていったから、それがそのままこの歌詞に繋がったなと思います。



―もともと自分事として書いた歌詞をライブでお客さんが歌ってくれるのを目の当たりにすると、「この人たちのために書いてあげたい」「この人たちの歌になってほしい」みたいな意識も出てくるのかなと思うのですが、そのあたりはいかがですか?

サーヤ:反響を見れたことはすごく大きかったです。アルバムを出した後のライブは意外な体験も多くて、「これはそんなだろうな」と思ってたやつが意外と受け入れてもらえたりしたので、何か狙っていろいろ書くよりは、「自分が素直になればなるほど聴いてくれるな」みたいなのは感じましたね。例えば、「U」はすごく自分事な歌詞だから、自分の中では「刺さらなくてもいいや」っていう感じだったけど、意外と「好き」って言ってくれる人が多かったり、逆に「『トゥルーマン・ショー』、みんな全然見てないじゃん」とか(笑)、いろんなデータを取れたのはめっちゃ良かったなって。

―「自分が素直になればなるほど聴いてくれる」という実感は大きかったでしょうね。

サーヤ:インバウンド用に作った嘘みたいな歌詞って冷めるじゃないですか。その感覚に近くて、「これ聴きたいんでしょ?」みたいなのをやった瞬間に終わっていく気がしてて。音楽もお笑いも「これ見たいんだろう?」っていうのをひけらかした瞬間に脳が終わる感じがあるので、「需要に合わせて」とか「ニーズを分析して」とかはしないようにしなきゃなって。好きなアーティストが海外向けに路線変更すると悲しくなって、「そんなに東京って言わなくても」とか思うし、やっぱり貫いてる人の方が吸引力があるから、周りのことは気にしないのが一番だなって思いました。

―『PEAK TIME』はこの一年の経験を通して生まれたものだけど、それは決して何かに寄せるわけではなくて、自分たちにとって一番心地のいいあり方を見つけていった結果なわけですよね。

サーヤ:そうですね。まずはライブで自分たち自身が気持ちよくなる曲たちっていう感じがします。「演奏してて、みんなゾーンに入る曲がもっとないとダメだね」みたいな感じになって、「Chaos」とかライブだとかなりめちゃくちゃで(笑)。でもやっぱり哲さんとかすごいから、「ゾーン入ってんな」って毎回びっくりするんですよね。そういうのがあった方がライブをやる上でいいなっていうのは思いました。

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