SNARE COVER、川上シゲと梅野渚を迎え語る「痛みがあるから生まれる強さ」

ー改めて、今回リリースされるデジタルEP『NoRoShi』のテーマを教えてください。

斎藤:「痛みがあるからこそ生まれる強さ」をテーマに書きました。過ちがゼロの人なんていなくて、むしろ歳を重ねるにつれて消せない過ちや後悔を積み重ねていくのが人間だと思うんです。それでも美しく見せる方法を模索して、生きていくしかない。そういう単なるポジティブさではなく、綺麗事ではない元気付ける曲を作りたいと思った結果、表題曲の「NoRoShi」が生まれました。EPのタイトルを『NoRoShi』にしたのは、他の曲にもその部分が含まれているからなんです。「Hourgrass」や「Wedding Bell」で表現してきた喪失感と、戻ってこない時間に対して肯定しようとする自分がいる、そういった感覚ですね。



ー「Hourgrass」や「Wedding Bell」は、自分の目の前から大事な人がいなくなっていく喪失感が描かれていましたけど、お三方が編曲された「永い夢の終わり」では大事な人の前から自分がいなくなる、逆の喪失感を描いたレクイエムに感じました。

斎藤:歌詞の内容を明確にすればするほど、楽曲の神秘性が失われるし、痒いところに手が触れる感覚はなくなる気がしていて。例えば「いつまでも後ろ姿を見失わないよう」のフレーズもそうですけど、人が生きていることの奇跡や「どこから人は生まれて、どこから来たんだろう」と思うことがあるんですよね。「きっと赤ちゃんはお母さんを選んで、この世に生まれる」ことって僕はあると思うんですけど、そういう母親の後ろ姿を見失わないように子どもが生まれてくる感覚とか、人間の神秘性を楽曲に入れたかったんです。

ー僕が感じたニュアンスと真逆でしたね。死ではなくて、生を描いていると。

斎藤:ただ、それを全部ストーリーでわかりやすくしてしまうと、この曲は違うかなと思っていて。部分部分でそういうものがちらつくというか……淡くすこしぼかしているんですね。

ー川上さんは「永い夢の終わり」を初めてお聴きになった時、どんな印象を持ちましたか?


川上シゲ

川上:タイトルと歌詞とメロディが合っているというか、自然に一体化しているのがすごく好きですね。何より1曲を作るのにすごく時間をかけて、かなり考えているんだなと思いました。歌メロに関しても、定石ではない持っていき方をするんです。その上、ファルセットを多用するじゃないですか。普通はこんなことできないし、これは新しい才能だと思います。ヴォーカリストの中でファルセットを使う人はたくさんいるけど、これほどまでにファルセットを最大限に活かしている曲や、プログレッシブな感じの曲をちゃんと作れる人間は少ないですね。

ー斎藤さんのファルセットは、天に向かっていく感じというか。ファルセットの中に景色が見えるんですよね。

川上:そうそう、いい表現ですね。なおかつ力があるんですよね。透明なんだけど、すごく力がある。だから苦しく聴こえない、そこが一番です。苦しかったらつまらないですから。今は第1段階の「永い夢の終わり」のレコーディングが終わったので、次にリアレンジしてやるときは、もうちょっと生弦を入れても面白いかなとか、ステージングも「ビジュアルはこういう感じで、SNARE COVERの世界はこういうふうにしたい」という構想が頭の中にあるので、ライブでどんどんやりたいです。普通にライブハウスで「いくよー!」みたいな感じじゃなくて、セッティングや後ろの映像とか照明にしても、もっと考えてやったらカッコよくなると思います。

斎藤:いやぁ……シゲさんに芸術として認めてもらっているというのは、ありがたいことですね。

川上:そういうのが全部1つになるとかっこいいですよね。向こうで言うと、ピーター・ガブリエルとかブライアン・イーノとか、あのへんの人間って譜面を書かないからね。ブライアン・イーノなんて「今日はこの曲をやります」って絵を描いて説明するんですよ。ロバート・フィリップとブライアン・イーノが2人で出した「Evening Star」という作品があるんだけど、結構おもしろいですよ。彼らも背景や情景をすごく大事にしてるから。

斎藤:はい、聴いてみます!

Rolling Stone Japan 編集部

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