米テキサス州知事、支持率アップのために「移民への残虐行為」を拡大

グレッグ・アボット州知事の後ろに控える州兵(RAQUEL NATALICCHIO/HOUSTON CHRONICLE/GETTY IMAGES)

米テキサス州のグレッグ・アボット知事が、支持率アップのために、メキシコからの移民への残虐行為を拡大している。

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テキサス州イーグルパス。前景にはきれいに刈り込まれた緑の芝生。こうこうと明りに照らされ、安全だ。背景にはメキシコのコアウイラ州の夜景。中央に横たわるのは川だ。ぽっかりと、夜の闇よりも暗い空間が広がっている。

コオロギの鳴き声に交じって、暗闇から女性の声がする。ひょっとすると子どもの声かもしれない。続いて男性の声。助けを呼ぶ叫び声だ。

芝生の所有者は、テキサス州イーグルパス代表として、州下院議員を8年務めた民主党のポンチョ・ネヴァレス氏だ。つい先日、テキサス州が有刺鉄線を何重にも配置したばかりだった。剃刀の刃がついたコイル状のフェンスはもともと家畜のバリケード用に考案され、のちに第1次大戦では軍用されて兵士の身体を切り刻んだ。だが鉄条網も越境を止めることはできなかった。越境を試みる移民は時折けがを負った。川の中で有刺鉄線に足を取られることもあった。有刺鉄線は見た目以上に危険だ。空腹時や疲労時、ましてや夜間ともなればなおさらだ。

その夜ネヴァレス氏は、良識ある人間なら誰もがやることをした。助けようとしたのだ。鉄条網があるために、川岸に向かうのも一苦労だった。苦労しながらなんとか闇の中を進んでいったが、手持ちの懐中電灯ではこだまする叫び声の出所を突き止めることはできなかった。国境警備隊に電話したが、水難救助は国境警備隊の管轄外であることは承知していた。叫び声はやがて途絶え、朝にはなんの痕跡も残っていなかった。

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グレッグ・アボット州知事は全米でも有数のお飾り兵士を配下に置いている。いつの世もテキサス州知事は一目置かれてきたが、21世紀に入ってからというもの、その地位に与えられた権利と特権は拡大している。911同時多発テロ事件以降、少なくともこの15年間、州知事の執務室で真っ先に目を引くのが、州が統括する男女武装兵士の人数だ。州知事は兵士にポーズを取らせ、一緒に記念撮影し、いったりきたり行進させる。まるで大統領のようなふるまいだ。

だがアボット州知事が武装兵士を好む理由は他にもある。自分に足りないものを埋めてくれるように感じられるからだ。昨年州知事は州議会の前で大失態を演じた後、報道陣を州都オースティンの北にある軍用飛行場に集めた。そこで記者会見を開いたが、メディアからの質問はまったく受け付けず、国境に派遣する兵士の数を増やすと発表した。Foxニュース出演の話が回ってきた際には、州知事を映すカメラは輸送機に乗り込む兵士の姿を収められる位置に配置された。ポーランド侵攻を発表してもおかしくないような、異様な雰囲気だった。

国境の武装化が進み、それに伴って死者数も確実に増えている。だがこれはアボット州知事に始まったことではない。きっかけを作ったのは前任者のリック・ペリー前州知事で、テロとの戦いやメキシコ麻薬戦争の絶頂期に見られたアメリカ社会の変化と関連していた。2009年、テキサス州警察は狙撃手を乗せたヘリコプターを国境沿いに配備した。こうした狙撃手はファルージャやカンダハールから帰還した退役軍人から訓練を受けており、その中には『アメリカン・スナイパー』のモデルとなったクリス・カイル氏もいた。ヘリに搭乗した狙撃手は、表向きには麻薬密輸業者の対策として配備されたことになっていたが、2012年に狙撃手の1人が横腹を打ち抜いたのは14歳の少年が運転するトラックで、荷台には9人のグアテマラ移民が乗っていた。生存者は強制送還されたが、彼らがグアテマラの外交官に語った話では、発砲前に荷台を覆っていたシートを取り除き、麻薬を運んでいるのではなく人間が乗っているとアピールしたそうだ。

テキサス州は暗黙のうちに狙撃プログラムを終了したが、それでも武装化は続いた。銃を搭載した哨戒艇、ドローン、ヘリコプター。ペリー前州知事は国境問題に関して、アボット州知事ほど強硬派ではなかった。彼の前任者ジョージ・W・ブッシュ氏の口癖だった「家庭に根付く価値観がリオ・グランデで途絶えることはない」というフレーズがしばしば党幹部の口にのぼるような、ひと昔前の共和党に共感していた。

Akiko Kato

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