田家:いやーすごい歌ですね。昭和23年11月発売。これは作詞のクレジットの名前を拝見してびっくりしたのですが黒澤明さん。なんですかっていう感じです(笑)。
刑部:これは映画の『醉いどれ天使』の中でも笠置さんが歌っていますけど、どうも黒澤明は笠置さんの歌唱力、パフォーマンスを非常に魅力に感じていたみたいで。やっぱりさすが黒澤明ですね。他の作詞家に託さない。自分で作詞しちゃうんですね。
田家:映画の中に使う曲としてこれが作られたんですかね。
刑部:ええ、そうですね。
田家:『醉いどれ天使』ってこういう映画だったんでしたっけ。
刑部:キャバレーみたいなシーンがあって、バンドの前で歌っているシーンが出てきます。
田家:キャバレーでこういう曲をやっていたんだ。でもこの曲も服部良一さんはどんなイメージで作られたんだろうと思いましたね。
刑部:いやー、やっぱりねこれ名曲だと思うんですけど、詞を見ても四行詩、五行詩の七五調じゃなくて、上手く作るなって思いますよ。
田家:わーおわーおですもんね(笑)。これが歌謡曲にあったということがいかに画期的、革命的だったかという1曲ですね。
刑部:そうですね、本当に。
田家:映画という音楽ということでも、この時代はかなり近しいものがあった?
刑部:戦前からそうやって挿入歌みたいな形で歌う部分があったんですけど、戦後になってくると外国のミュージカルみたいな感じのものが結構多く出てくると思うんです。日本的に作るというような形が出てくると思うんですけど、笠置さんはそういうの多いですよね。映画に自分が出て歌っているシーンが。
田家:それが音楽を辞めた後、俳優さんになっていくわけですもんね。
刑部:普通のレコードを吹き込んでいる歌手と違って、舞台から出てきている。パフォーマンスをして歌っていたというところが大きいと思うんですよね。それがやっぱり映画の演劇の舞台になっても、笠置さんがそういう部分で活躍するところに繋がっているんだと思うんですよね。
田家:こういうブギウギ時代のピークはどのへんになるんですかね。
刑部:やっぱり昭和24~25年。特に「買い物ブギー」あたりがピークじゃないかなという感じがします。
田家:その曲をお聴きいただきます。8曲目「買い物ブギー」。
田家:1950年に発売。こんなに自由で破天荒で明るくて楽しくて庶民的な歌っていうのは飛び抜けていますね。
刑部:これはやっぱり服部さんが作詞しているんですけど、遊び心満載って感じですよね。
田家:歌える人もいないでしょうからね、この歌は。
刑部:いやー、笠置さんじゃないと難しいんじゃないですかね。
田家:服部さんはブギというタイトルの曲を約30曲ぐらいと、『ぼくの音楽人生』の中にお書きになっていましたけど、それぐらいなんですかね。
刑部:そうですね。実際にレコードとして発売されなかったような曲もありますけどもね。
田家:笠置さんと服部さんを結びつけていたものはやっぱりブギ?
刑部:そう言っても過言ではないかもしれませんよね。
田家:やり尽くしたという感じはあったんでしょうかね。
刑部:この後やっぱり急速に音楽というものは流行が変わってきますからね。ブギが続いていくと、やっぱりまた新しいメロディというか、音楽が出てきたことによって大衆もそれがずっと続くと飽きてしまうというか。熱しやすく冷めやすいというのが日本人特有なのか、服部さんの作る曲もブギから違ったものへと変わっていくんですよね。
田家:その話は来週笠置さんの曲でいろいろお訊きしていこうと思うのですが、NHKの『ブギウギ』のスタッフがなんで今このドラマをやるんだという話をされたりしましたか?
刑部:あまりそういう話は私自身は聞いてないんですけどもね。
田家:今なんでこのドラマがこんなに受けるんだろう、この音楽がこんなにみんなにヒットしているんだろうというのは1つのテーマになりますね。
刑部:そうですね。これは推測でしかないんですけど、古い流行歌の中でも服部さん、笠置さんのものはJ-POPに繋がる要素があって。そこが若い人の間でもうけるし、今の若い人たちなんかただ歌うだけじゃなくて踊ったりする。それがセットになっている部分でも受け入れられやすいというのが1つあるんじゃないかなという感じがしますけどもね。
田家:来週も笠置さんの話をいろいろ教えてください。ありがとうございました。
刑部:ありがとうございました。
静かな伝説 / 竹内まりや今流れているのはこの番組の後テーマ、竹内まりやさんの「静かな伝説」です。
この番組で笠置シヅ子さんの特集を組めるのは、感慨深いものがありますね。J-POPの原点に笠置シヅ子さんがいるというのは、自分の体験としても覚えてはいるんですけども、なかなか特集しにくい。冒頭でも申し上げましたけども、あまりに古いのでどなたに話を訊けばいいだろうとか、その頃の音源を流して他の番組と比べて違和感を持たれないだろうかと考えたりしていたんです。でもこれは朝ドラ、NHKのおかげですね(笑)。僕はNHKとはほとんど縁がないですし、朝ドラもほとんど観たことないんです。『あまちゃん』をちょっと観たぐらいで、そういう人間が今度のドラマは録画しながら観ていますからね。やっぱりテレビの力はすごいなと思いながら、こういうあまりみんなが振り向かないようなこと、それから忘れてきたようなこと、日の当たらないところに置かれていること、人たちを取り上げてくれるとテレビに対して感謝する気持ちが生まれてきます。
しかも、今月の解説者は1977年生まれですよ。77年当時の音楽シーンだったらいくらでも語れるんですけども、そのとき生まれた方が僕が生まれる前の話をされる。自分が生まれた頃の話を息子から訊いているという不思議な感覚もありながら、おもしろいなと思いつつ収録しました。ドラマの方はこれから戦時中に入っていくんですね。収録はちょっと前なので、まだ戦争そのものではないですけども、弟さんが戦争に行ったところ、お母様が亡くなったところで終わっておりますが、戦後焼け跡で打ちひしがれていた人たちに響いたのがブギウギであります。今はそういう意味では焼け跡みたいな時代なのかもしれないなと思ったりしながら、このドラマを観ています。ドラマが古く思えないのはなんなんでしょうね。来週はブギウギにとらわれない笠置シヅ子さんの歌をお聴きいただきます。
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
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