世界でもっとも危険な遊戯、コロンビアの闘牛「コラレハ」衝撃ルポ

「イカれた連中向けのスポーツだよ。つねに死神が隣にいる。たとえ向こうさんの姿は見えなくともね」――カタリーノ・ブラーヴォ

伝統的な闘牛はスペイン入植者によってコロンビアへ、旧世界の余暇が新世界へと持ち込まれた。はるか昔にはスペインや南米の一部地域でも、コラレハのようなイベントが行われていた。そこでは小さな町の広場を封鎖し、裕福な地元の牧場主から提供された雄牛を相手に、男たちが命知らずの技を繰り広げていた。だが時代とともにこうした慣習は危険すぎるという理由で禁じられ、あるいは廃れていった。ただひとつ、コロンビアのカリブ海沿岸を除いては。起源のほどは定かでないが、数少ないコラレハ研究者によると、19世紀前半にスクレ県やコルドバ県など畜牛がさかんな平野部で始まったと言われている。この辺りは太陽が照りつける景勝地で、熱帯特有の熱い雲はさながら青空をバックに連なる雪山のようだ。カリブ海沿岸の人々はコステーニョと呼ばれ、顔にはアフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸原住民の面影が残る。みな自分たちの地域や伝統、土着の文化を誇りにしている。先のコラレハが行われた町から高速道路で30分ほど下ったサン・アンテロという町は、毎年ロバの品評会が行われる。

こじんまりした豊かなオアシスの周辺に貧困地域が広がるコロンビアの実情は世界銀行も認識しており、「世界でもっとも格差の大きい国のひとつ」に挙げている。国民の40%近くが貧困層で、約14%は極貧状態に分類されている。海岸沿いの農地は限られた一家が掌握し、大規模な農場が地平線いっぱいに広がっている。さながら封建社会だ。おそらくそれも関係しているのかもしれない。若者たちは名を挙げる可能性が低いことを熟知し、闘牛場に活路を見出すのだ。コラレハでは貧しい人間もいっぱしの人間になれる。ただし、流血と引き換えに。

闘牛は観客に大人気だ。「楽しみ」「パーティ」、あるいは多くの場合「伝統」という言葉で語られる。

「雄牛の動き……アドレナリンがたまらないわ」。闘牛場の外で並んでいたクリスティーナ・オソリオさんはこう語った。「とくにこれというルールもなく、なんでもありのパーティ。6日間、心ゆくまで楽しめる」。さらに彼女はコラレハで必ず耳にする言葉を口にした。「コラレハは私たちの血に流れているのよ」。

YouTubeで運営する『El Show de Frijolito TV』というチャンネル用にコラレハ動画を撮影するルイス・バルドヴィノさんも、可能な限り足を運んでいる。「情熱――言葉では表現できないよ。男たちは闘牛場で雄牛と戯れながら、自分らしさを表現するのさ」。自分の発言が突拍子もなく、同時に紛れもない事実だと言わんばかりに、彼は笑った。


コラレハのスタジアムも、まもなく過去の産物になるかもしれない(CARLOS PARRA RIOS)

コロンビア国民全員がこうした愛着を抱いているわけではない。コロンビア初の左派大統領、グスタヴォ・ペトロ氏はコラレハの廃止を公約に掲げている。

「各都市の市長全員に、死の見世物の開催を止めるよう要請した」と大統領はツイートした。「コロンビアは美しい国だ。残忍な国ではない」。

大統領の発言は、動物と人間を虐待する血のスポーツだとしてコラレハを忌み嫌う数百万人のコロンビア国民を代弁したものだ。死にかけた闘牛士の動画がインターネットに公開されると、コメント欄は憐れみと賞賛の真っ二つに分かれる。

「私の使命は動物愛護です」。アンドレア・パディーリャ上院議員はキビキビとしたボゴタなまりでこう語った。「場所を問わず暴力の被害者が出る限り、私をはじめとする大勢のコロンビア人は声をあげるつもりです」。


砂の上に横たわる若いバンデリリェロは雄牛の横腹に槍を突き刺すが、この後踏みつぶされた(CARLOS PARRA RIOS)

動物愛護に一生を捧げ、その甲斐あってコロンビア上院議員に当選したパディーリャ氏は、現在も複数の動物救済基金や野良猫・野良犬の予防注射プログラムでボランティアとして活動している。またコラレハおよび闘牛・闘鶏の伝統を廃止する法案も提議した。「これらは何の得にもならない、暴力的な見世物です。そのせいで町は食と娯楽の文化にどっぷり染まり、保健医療や教育、安全といった重要なニーズが不足しているのです」。

法案は議会で審議され、法制面で最大の難関にぶち当たったコラレハは廃止の危機に直面した(コラレハは伝統が根付いた地域でしか開催が認められていない)。

審議はその後も続いたが、委員会でつぶされ、裁決には至らなかった。

パディーリャ議員はあらためて法案可決を進める方針だが、コロンビア国民に問いただそうとも考えている。「この残忍な見世物がコロンビアに存続してよいものか、国民投票で一般市民に是非を判断してもらう方向で進めています」とパディーリャ議員。そして遅かれ早かれ、コラレハは廃止されるだろうとも付け加えた。

コラレハを楽しむ地元住民はというと、万人受けはしないかもしれないが、自分たちには大事だと考えている。「生まれた時からコラレハが染みついている。これは自分たちのものだ。ボゴタやメデリンなど他の地域の人には好まれないかもしれない。だがこれは自分たちのもの、自分たちの身体に刻まれている」と言うサムエル・ネグレーテ氏は、医者として長年コラレハで酔っ払いや熱射病患者、負傷者を治療してきた。


Akiko Kato

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