ダニー・ハリスンが日本で語る 父ジョージから受け継ぐ思想、ブラーのグレアムも迎えた自身の音楽

父ジョージやパートナー、グレアム・コクソンからの影響

─昨年リリースされた2ndアルバムのタイトル『INNERSTANDING』には、どんな意味があるのでしょうか。

ダニー:例えば「Overstanding」には「自分の意見を押しつけること」、「Understanding」には「持つべき意見を持つ」という意味があるのに対し、「Innerstanding」には「自我と切り離して、その状況をただ受け入れる」という意味がある。つまり「慈悲の心を深く理解する」ということ。これは禅や中国の無極(Wuji)の教えに由来している。僕は、この慈悲の心や無極の精神こそ未来への指針になると思っているんだ。つまり分断ではなく共生するということだね。

前作『IN///PARALLEL』は、警告でありながら共生を提示していた。一方今作『INNERSTANDING』ではお互いを受け入れ、つながりを大事にすることをテーマに掲げた。アートワークも前回のデザインを受け継いでいて、サイズ、フォントや写真のニュアンスも同じ。2枚で「対」になっているんだ。



─サウンド面に関しては、前作とどう違いますか?

ダニー:『IN///PARALLEL』でやったことは、すごく複雑だった。映画のサウンドトラックみたいでもあり、悲しいテイストだったんだ。だからこそ今作は、ライブでも動きがある楽しい曲を集めようと思った。悲しさは残っているにしろ、よりアグレッシブでサイケデリックなサウンドを目指したというか。とくにグレアム・コクソンのギターが、まるでゴジラの雄叫びのような、(グレアムのギターサウンドを真似る)怪獣のようなサウンドだよ。ギターを使って、ギターじゃないような音を出すのがグレアムなんだ。

─ダニーにはたくさんのミュージシャン仲間がいると思うのですが、その中でグレアムはどんな存在?

ダニー:(日本語で)グレアムさんは先生です! 僕は90年代にブラーの音楽を聴いて育ったからね。特に好きなアルバムは、アイスランドで録音された「Death of a Party」や、「Beetlebum」が収録されている『Blur』(1997年)。「Beetlebum」のエンディングには、グレアムの長いソロがある。彼はあのアルバムの作曲にかなり関わっていたと思うし、だから気に入ってる。デーモン(・アルバーン)とグレアムの才能が、いいバランスで拮抗しているよね。

このアルバムとグレアムにはものすごく影響を受けている。もちろん、ジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトン、クリーム、そして父からもね。父のギターはどちらかというとメロディックで、ヘンドリックスからはパワフルさとブルースを学んだ。エリックとヘンドリクスのブルースを聴いて育ったんだ。一方で、グレアムはあのダーティーで、ダーティーで、ダーティーなサウンド!(笑) そこにすごく共鳴したんだ。

─グレアムとの実際のレコーディングはどうでした?

ダニー:彼がスタジオに現れたとき、「この(ブラーの)トラックに使ってたペダルは何か覚えてる?」と尋ねたら彼は覚えていたんだ! だから次のセッションでは、僕の好きな曲で彼が使っていた機材を持ってきてもらって、いろいろ試すことにした。レコーディング中、僕はブースの窓越しに彼の演奏を見ながら「よし、いいぞその調子だ!」と興奮しっぱなしだったよ(笑)。彼にはサックスも吹いてもらったんだけど、これがめちゃくちゃ上手いんだ。4種類も持ってきて、ぜんぶ演奏していたな。そういえばThe Waeveでも彼はサックスを演奏してるよね。きっとそのための練習も兼ねてたんじゃないかな(笑)。



─オーストラリア出身のシンガーソングライターで、ダニーのパートナーでもあるメレキも前作から参加していますよね。クリエイティブな面において、彼女はどんな存在ですか?

ダニー:僕が今までに会った人の中で、彼女がいちばんインスピレーションを与えてくれた人だ。お互いのことをクリエイティブな面でもサポートし合うのは、僕にとって初めての経験だよ。今朝も彼女は、何時間も作曲に没頭していた。邪魔されるとすごく怒るんだ(笑)。彼女は物事をすごくポジティブに捉えていて、僕はその反対。例えば、コップに水が半分入っているのを見た時、彼女は「半分も入ってる」と考えるけど、僕は「半分しか入ってない」と考える。いいバランスなんだよね。

彼女の音楽スタイルに僕は必要ないけど、僕の音楽には彼女が必要だ。2人の声は、いわゆる「陰と陽」の関係性なんだよ。僕がthenewno2で、リエラ・モスやカミラ・グレイといった女性ヴォーカルをフィーチャーしていたのと同じこと。僕がマッシヴ・アタックの大ファンなのも、ダークなミュージックに柔らかなヴォーカルのバランスに惹かれるからなんだ。

─メレキもアルバム『Death Of A Cloud』を昨年リリースしたばかりですよね?

ダニー:そう。アルバムのテーマは、ティク・ナット・ハンの書籍の一節を引用している。彼は人生のサイクルについて、「雲は決してなくならない。姿を変えるだけ」と説いた。『Death Of A Cloud』は、彼女の父の死がテーマになっているんだ。僕たち2人は音楽を通して父の死、生と死と向き合ってきた。アプローチは違えど、僕たちは考え方が似ているからうまくいっているんだと思う。



─アーティストとしてのあなたにお父さんの影響があるとすれば、それは何だと思いますか?

ダニー:ワールドミュージックへの愛じゃないかな。実は今、ブルガリアの女性コーラスともレコードを作っている。数曲は、親愛なるアヌーシュカ・シャンカール(ジョージに多大な影響を与えたインドのシタール奏者、ラヴィ・シャンカールの娘)とも一緒に作ると思う。父もブルガリアの女性コーラスが大好きだったのに、そのプロデューサーが僕のところに来て「彼女たちとアルバムを作りませんか?」と言うのは、なんだか因縁めいているよね。ひょっとしたら父の仕業かもしれない。とにかく、僕とメレキにとって音楽的な影響はやっぱり父からきている。彼らの音楽が染みついているんだ。

─メレキさんのお父さんもミュージシャンなんですか?

ダニー:ミュージシャンじゃないけれど音楽が大好きで、エリック・クラプトン、ギターミュージックの大ファンだった。彼自身もギターを弾いていた。僕たち2人は父親の影響を引き継いでいるんだ。

僕とメレキはこれからもどんどん音楽を作っていくつもりだよ。先週の日曜日にちょうど彼女の次のレコードを終えたところで、フライアー・パークで最後のヴォーカルをレコーディングした。彼女は今、次のアルバムに向けて動いていて、僕もほんの少しギターで参加したよ。彼女のバンドに参加できたらすごくラッキーなんだ。いつもクビにされるからさ(笑)。ここ2年のグラストンベリーでは一緒に演奏できたけど、毎月ごとにバンドから追い出されるんだよ。入ったり戻ったり……もう定番になっちゃったな。








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─(笑)。およそ7年かけて、「対」になるアルバムを作ったわけですが、これからどんなことをやりたいですか?

ダニー:近々発表されるプロジェクトがあって……ここでなら言ってもいいかな。ワールドミュージックに明るいカルメン・リソと、アルタイ山脈周辺の民族の喉歌を操るモンゴルのバンド、フンフルトゥのコラボレーションアルバム『DREAMERS IN THE FIELD』がリリースされるんだ。

もう一つ、これは言うと怒られちゃうから今は言えないけれど、偉大なプロデューサーと進めている秘密のプロジェクトがある。そのアルバムはもうすぐ完成する。新しいバンドで、名前はまだ決まっていないけれどアルバムはできた。つまり2枚のアルバムのリリースが控えているってところかな。去年、僕はメレキに負けたんだ。彼女は2枚アルバムをリリースして、僕は1枚だった。2023年は彼女の勝ちだったから、今年は僕が勝ちたい! でも、こんなふうに競争心を燃やしてるってバレたら彼女は怒るだろうな(笑)。




ダニー・ハリスン
『INNERSTANDING』
再生・購入:https://dhaniharrison.lnk.to/DhaniHarrisonPR

Translated by Kyoko Maruyama, Natsumi Ueda

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