つれなのふりや / 頭脳警察
田家:頭脳警察の「つれなのふりや」。これはどういうアルバムだったんですか?
志田:これは頭脳警察が「不連続線」という劇団にずっと音楽を提供していたんですけれども、そこ書いた音楽を集めたアルバムですね。事務所が作った大事な作品だと思うんですけども。今歌っていたのは藤原マキさんという方で、「状況劇場」からの客演で「不連続線」に出演されたと聞いております。
田家:何と『マラッカ』の7年前ということですよね。
志田:そうなんですよ。「つれなのふりや」というキーワードで、PANTAさんの中には1972年に既にこういったものがあって、それが発展する形だったということを知るか知らないかでアーティストのイメージとして全く違ってきますよね。
田家:違いますよね。この「つれなのふりや」のという言葉は安土桃山当時の恋歌の一節なんですよね。
志田:そうですね。
田家:それがさっきの「つれなのふりや」になったというのは、PANTAさんという方がいろいろなものを温めながら、次はこれをやりたいんだと、長いレンジで音楽を作っていたといういい例ですよね。
志田:本当にそうですよね。今回の『東京オオカミ』。あの中にも頭脳警察のデビュー前に作った曲とかありますから、レンジの広さって半端ねえなこの人というのが。
田家:未発表曲がいっぱいある人なんだなという。
志田:ですよね。もう1つ考えるのは1972年に劇団に提供していた曲がPANTA & HALでより洗練されたという、言い方悪いかな。成長した形であるわけですけど、PANTAさんの中には劇団との関わりというのがある種ずっとあったわけですよね。『music for 不連続線』のブックレットが素晴らしい出来で、不連続線の主催者と言ってもいいかな。菅孝行さんという方がいらっしゃるんですけど、不連続線が始まった結成した日は、1972年の2月28日。これはあさま山荘事件の銃撃戦が終わった日なんだとインタビューで言っているんですよね。
田家:当時のアンダーグラウンドのお芝居をやっている人、映画もそうですけど、やっぱり政治に絶望してそういう表現の方に走った人が多かったですからね。
志田:PANTAさん自身は「そんな挫折とか関係ねえ、自分たちの音楽がすごいと思ってやってたんだよ」って言っているんですけれども、そういう状況に背負わされるものというのは絶対にPANTAさんも感じざるをえないところがあったから、頭脳警察が重荷になって1975年に解散したんだと思うんですよね。
田家:今、志田さんがおっしゃった言葉は後ほど触れようかと思っていたんですけども、政治とかそういうものと音楽は別なんだというのが、PANTAさんの頭の中にずっとあったんでしょうね。たまたまこういうことを歌っているけども、音楽はそういうものじゃないんだよという。
志田:音楽家としての矜持というのかな。それは感じますね。
田家:志田さんが選ばれた今日の4曲目です。『マラッカ』からもう1曲お聴きいただきます。「裸にされた街」。
裸にされた街 / PANTA & HAL
志田:すごい曲ですよね。
田家:メロディ・メーカーPANTA。
志田:メロディも素晴らしいけど、ここまで絶望的な詞っていうのもなかなかないんじゃないですかね。
田家:あれほど深かった傷跡も消して、何事もなかったみたいだ。
志田:70年代の挫折ってものに対してのレクイエムそのものだなってあらためて思いますよね。PANTAさんは、この曲で70年代をここで終わらせたというところも1つあったんじゃないかなという気がしているんですけども。
田家:これで70年代にけりをつけようとした。
志田:それでそこから次へ向かうものとして『クリスタルナハト』とかがスタートしたんじゃないかなと、僕は感じる部分がありますね。
田家:日本で何があったとか、70年代の学生運動がどうだったとか、そういうことではなくて。
志田:重い問いかけを発した上で、次に目を向けようみたいなところに行かれたんじゃないかと、思いますけどね。
田家:合唱が入ってましたよね。
志田:はい。荒川少年少女合唱団。
田家:これはやっぱりこういう子どもたちに歌ってもらいたかったんでしょうね。
志田:たぶん絶望的な状況の中で未来を繋ぐ存在として、そういう子どもたちのことを意識したんじゃないかな。慶一さんもこういうことを言っていたから、誰が言い出したかまでは取材してなかった気がしますけど。
田家:2人のそういうある種の歴史観みたいなものは共通しているところはあったんでしょうね。
志田:それはあったかもしれないですね。
田家:流れているのは頭脳警察の「あばよ東京」。1974年に発売になった頭脳警察6枚目『悪たれ小僧』の中に入っていた曲なのですが、去年の6月14日、渋谷のduo MUSIC EXCHANGEで行われたライブバージョン。生前最後のライブが『東京三部作』というライブ作品として発売になっているので、その中からお聴きいただいております。