【密着ルポ】ディアハンターが明かす過去と現在「同世代で最もボウイに近いのは僕だ」

ディアハンターのブラッドフォード・コックス(Photo by Daniel Dorsa for Rolling Stone )


最新作の共同プロデューサー、ケイト・ル・ボンとの制作風景

コックスはキッチンに向かう。そこではウェールズ人のシンガーソングライター、ケイト・ル・ボンが、コックスと共に今夜レコーディングするEP用の歌詞をアンティークなタイプライターで打っている。彼女は新作『Why Hasn’t Everything Already Disappeared?』の共同プロデューサーでもある。彼女が打ったシュールな歌詞をコックスが確認する。「マリリン・モンローがガラスの窓枠に転生した/最初は調整が難しかった/彼女の全身は今は目となり/見られて見透かされて……」

「この歌詞はちょっと心配だな」と彼。「少し物足りなくないか?」と言うと、ル・ボンが顔を上げて「もっと要る?」と聞く。

「ああ、僕たちにはもっと必要だね」とコックスが言い、彼女を立ち上がらせて、自らタイプライターの前に座る。そして「思いつくままに書いてみるね。スタジオに入る前にこの紙いっぱいに歌詞を書き込まないと」とル・ボンに伝える。


ケイト・ル・ボンの2016年作『Crab Day』収録曲「Love Is Not Love」

その日の午後遅く、コックスとル・ボンの二人は、コックスの自宅から車で数分の距離にあるメイズ・スタジオの小さなコントロールルームで、「Secretary(秘書)」と仮タイトルのついた楽曲のラフミックスを聴いていた。他のEP同様に、この曲も2018年4月に西テキサスで行われたマーファ・ミス・ミュージック・フェスティバルに、彼ら二人が招聘アーティストとして同席したことから始まった。コックスがル・ボンをディアハンターの新作の共同プロデューサーに任命したことで、このプロジェクトはスローダウンしたが、現在の二人は春に始めたこのプロジェクトを完成させるべく、大急ぎで作業を続けている。なぜなら、ル・ボンは翌朝の飛行機で帰ってしまうからだ。

エンジニアのベン・エッターは肩までの豊かな巻き毛の穏やかな男で、コックスとル・ボンがレコーディングの出来栄えを確認する間、彼らを優しく見ている。この曲はとても魅力的で、ル・ボンの控えめで冷淡なリード・ヴォーカルがエンディングのコックスの語り口調の言葉へとバトンを渡す。レコーディングが終了すると、コックスは自分の声のリヴァーブを調整したいと言う。「ポッドキャストみたいな音にはしたくない。エルメスのスカーフみたいなサウンドじゃないとダメなんだ。ほら、グッドウィル(リサイクルショップ)で見つけるようなスカーフさ」と。

エッターが次の曲のキューを出す。この曲ではル・ボンが「俺は消防士/火を消す男」というリフレインをいたずらっぽく陽気に歌う。その傍らでコックスは奇妙な長文のモノローグを添えている。「この国で25年間、火を消し続けてきた……」と(「あれは完全な即興だった。僕の頭全体がアパートの一室みたいな感じで、僕自身はスーパーに買い物に出て留守のまま、誰かが僕の喉を借りている状態だった」と、あとでコックスは語っていた)。コックスはエッターに、自分とル・ボンの声をステレオの両側にパンしてくれと頼む。「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの『ザ・ギフト』みたいなスタイルで」と。



コックスはカウチにバタンと倒れ込む。その横にはディアハンターのプロデューサー、ベン・H・アレンが2006年のナールズ・バークレイのデビュー作で受賞したグラミー賞のトロフィーが置いてある。コックスは頭から爪先までベージュ系で統一し、自分の存在をカモフラージュしているかのようだ。バギー・パンツ、ジップアップ・ジャケット、野球帽――そして、今日のセッションは始まったばかりだというのに、彼はもう疲れているように見える。エズラ・パウンドの詩篇『キャントーズ』を手に取りながら、コックスはぼんやりと「話すのに疲れたよ」とつぶやく。その横でル・ボンとエッターは作業を続けている。

Translated by Miki Nakayama

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE