屈指の存在感と歌唱力の持ち主、桑名正博をプロデューサー寺本幸司が語る

松本隆との関係が生まれる兆しになった曲

田家:『Who are you?』というタイトルはどういうイメージだったんですか?

寺本:これは僕のアイデアで、要するにファニー・カンパニーを辞めて、1人のヴォーカリストとして出てくる。「お前誰?」というので作ったアルバムなんですね。

田家:お前は誰なんだ、何者なんだということをこのアルバムで証明しようと。お聴きいただいたのは76年、アルバム『Who are you?』から「夜の海」でした。続いて、寺本さんが選ばれた4曲目です。やはり『Who are you?』に入っておりました「真夜中列車第2便」。作詞が松本隆さんで、作曲が桑名正博さん。

寺本:これは『Who are you?』という、お前誰だというアルバムを作るのに際して、下田と桑名と組ませたり、桑名のオリジナルも期待したんですけど、小杉理宇造プロデューサーが松本隆っていうのもありじゃないって話をして。松本隆はそのとき僕から見たらメジャーの作詞家になっていたし、はっぴいえんどのときとはまったく違うイメージがありましたから。彼も、桑名くんのヴォーカルはいいって言っているよって話もあったので、松本さんに1曲お願いできないかって話になり、できた詞がこれで。桑名はすごくこの詞に乗りました。いいメロディも書いていたと思います。これは桑名・下田コンビじゃ出てこない曲だと思った。このアルバムの中で、この曲は僕にとってすごく輝いているものの1つになったので。そこから松本隆さんとの関係が生まれていくというある種の兆しになった曲ですね。

田家:これがあったらから「哀愁トゥナイト」にも繋がったし、「セクシャルバイオレットNo.1」も生まれてきたと。

寺本:下田と桑名のコンビもありだけど、松本隆もありだなと本当に思い込んだのはこの曲ですね。

田家:そのときに、関西関東っていう頭はもうなくなっていました? もっと全国区のロックボーカリストに。

寺本:もうなくなっていましたね。

田家:桑名さんの中にはどこまであったんだろうなと思いますけど。

寺本:桑名の中には、死ぬまでありますね。出ていく、帰ってきたですから。ふふふ。

田家:それでは改めてこの曲をお聴きいただきます。1976年の曲。「真夜中列車第2便」。曲のテーマとか詞のテーマというのは松本さんとお話されるわけではないんでしょう?

寺本:話はしませんね。したことは1回もないんじゃないですか? 桑名というものをどう捕まえているのかなというのはお互いに勝負ですから。そういう感じで出てきてやっぱりすごいなと思ったり、やっぱりこれは違うなってこともありますけど、事前にこんなものを書いてもらいたいとかってことは、まったくないですね。

田家:同じ旅でも下田さんが描く旅と、松本さんが描いている旅立ちとはシチュエーションも違いますからね。それでも桑名さんがこういうのを歌うといいだろうなっていうのは2人とも共通して持っていた。

寺本:そうですね。桑名のメロディも自分の声が1番生きるところのキーを使っていますよね。そういうところはうまくできているなと思いますね。これによって松本さんも、桑名ってやっぱりいいなって思っていただいたと思います。

田家:お聴きいただいたのはアルバム『Who are you?』の中から「真夜中列車第2便」でした。

Rolling Stone Japan 編集部

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