ジャイルス・ピーターソンが語る、ブリット・ファンクとUK音楽史のミッシングリンク

ジャイルス・ピーターソン(Photo by Benjamin Teo)


黒人と白人の音楽文化が統合された初のムーブメント

―じゃあ、僕らが想像する“イギリスっぽいムーブメント”の要素を、ほとんど全部持っていたのがブリット・ファンクだったんですね。

ジャイルス:本当にそうだね。STR4TAのプロジェクトを始めて面白かったのが、「Guardian」「Independent」、「Times」なんかの伝統あるメディアがこぞって興味を示してきたことなんだ。ブリット・ファンクは歴史としては短かったし、資料があまりないからね。ただ、インターネット以前のムーブメントだけど、幸いなことに当時のレコードはたくさん残っている。そして、最近はBack Lives Matterのこともあるし、物事のルーツについて興味を持つ人が増えているし、その対象のひとつにブリット・ファンクが含まれていると思うんだ。

ガーディアン誌によるブリット・ファンクの特集記事。STR4TAとジャイルスの働きかけによって、本国イギリスでも再評価が進み始めている。(画像はジャイルスのInstagramより)

ジャイルス:例えば、イギリスではカーニバル(※)や、レゲエのサウンドシステムのカルチャーについて話す人が増えてきた。その二つは「イギリスっぽさ」を語る上で重要だよね。ただ、レゲエのカルチャーはバーミンガム、マンチェスター、ロンドン、ブリストルあたりのカリビアン・コミュニティだけのもので、完全なる黒人文化だったけど、ブリット・ファンクにはもっと多様性があった。黒人音楽と白人音楽が統合されたムーブメントだからね。それが“イギリスっぽさ”にもつながっている。だから面白いんだよ。レゲエの場合、彼らはイギリスにいながら“カリビアンっぽさ”を大事にしてきた。レベル42はほとんどが白人のグループだけど、フリーズは白人のバンドに黒人のシンガーがいるし、ハイテンションやライト・オブ・ザ・ワールドは全員が黒人、アトモスフィアやインコグニートは白人と黒人のミクスチャー。それが意図的ではなくて、自然とそうなっているのが面白いよね。当時の僕はそれを見て、「人種の関係なく踊れるものなんだ!」と思ったんだよ。

※毎年8月にロンドンのノッティングヒル・エリアで開催される世界最大のストリート・フェスのひとつ「ノッティングヒル・カーニバル」が有名。西インド諸島からの移民のカリビアンのコミュニティによるイベントで、レゲエ、カリプソ、ソカ、ジャングルなどが流れる。


「Top of the Pops」で演奏するフリーズ

―そこまでユニークだったブリット・ファンクが、これまで振り返られる機会がほとんどなかった理由がさっぱりわかりません。1981年の時点でブリット・ファンクのコンピ『Slipstream - The Best Of British Jazz-Funk』が出ていたように、リアルタイムでも盛り上がっていたはずなのに。

ジャイルス:ある意味、ブリット・ファンクは僕たちだけの秘密だったんだね。それが今、こうやって語られるようになってうれしいんだ。このムーブメントが興味深くて、社会的意義があるものとして気づかれたということだから。ブリット・ファンクは僕たちの旅の一部でありながら、充分に語られてこなかった。だから僕はSTR4TAを通してシグナルを発信することで、僕たちがリアルな物語を語る様子を見せていきたいんだ。

そして僕は、ブルーイがとても重要な文化人だと思っている。40年間も続いてきたインコグニートを率いるだけでなく、フリーズ、ライト・オブ・ザ・ワールドで活動してきた人物なんだから。若い世代の黒人やミックスのミュージシャンたちに、多大な影響を及ぼしているはずだよ。エリザベス女王は、彼にナイトの称号を与えるべきだと思う。ポール・マッカートニーが授与されたのに、ブルーイが授与されていないのはおかしいよ。あんなにも文化に貢献しているのに、過小評価されている。例えば最近だと、(グライムのラッパー)ストームジーが重要な黒人アーティストのアイコンとして挙げられるけど、その背景にはブルーイがいる。だから僕は、ブルーイと彼の世代のミュージシャンたちを賞賛するためにここにいるんだ。

Translated by Aoi Nameraishi

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