トム・ヨークが盟友と振り返る、レディオヘッド『Kid A』『Amnesiac』で実践した創作論

早すぎた広告戦略「ブリップ」

―『KID A MNESIA』再発/回顧企画を進める過程のどこかの時点で、編集したりストーリーやコンテンツを微調整したい、何らかの形で考えて直し今にアップデートしたい、とそそられたことはありましたか?

トム:そこに関して興味深かったのは、僕たちがエキシビション等々について考え始めた時、それをリライトするというよりむしろ……様々な素材を見返し漁っていくうちに、なんというか、そっちの方が、僕たちに「ああしろこうしろ」と指示してきたっていう。あれはかなり興味深かったよ、作っていた当時、自分たちにもきっちり見通せなかった/やり抜けなかったアイディアや物事があったわけだけど、今や僕たちもそれらを見通したし、その論理的な帰結としてヴァーチャル・エキシビションにまでなった、と。それをやる行為は本当に楽しかったし、ほとんどもう、プロセスの一部がどういうわけかタイムカプセルに閉じ込められていて、20年経ったところでそれが解放され、再び何か奇妙なことをやり始めた、みたいな? ヴァーチャル・エキシビションの方向性をどうすべきかあれこれ探っていた際も、僕たちはとにかく作品を見返した。

スタンリー:新しいことは一切やっていない。まさに始まりの段階から、「新しい・作品は・なし(no/new/work)」。新しい作品は含めない。時代に合うよう改作等々するつもりも一切なかった。で、奇妙だったのは、トムもタイムカプセルと言ったけれども、僕たちには多くの作品があって、当時僕たちがあれらで何をやったかと言うと、自分たちでもその正体が分かっていなかった。とにかく……(トムに向かって)思うに、要はお前には、LPを1枚出すっていう契約上の義務があったってことだろ?

トム:(苦笑)あるいは、2枚ね。

スタンリー:2枚でもいい。ともかく、その結果ああいうことになった。

トム:可笑しかったのは僕たちもある種のメンタリティを、『OK Computer』時にレコード会社から教え込まれたことを吸収してたってことで。彼らはコンスタントに求めてきたんだよ、「この広告向けの素材が必要」とか「このショーウィンドー用の展示素材を」、あるいはこれ、今度はあれ……という具合だった。そんなわけで僕たちも「よし! とにかく山ほど素材を作ってやれ!」ってノリになった。そう言われて、僕はとにかく素材を手っ取り早くバンバン作っていったし、深く考えることすらしなかった(苦笑)。

スタンリー:でも、とんでもない量のマテリアルがあったから、「はい、じゃ、これをあのジャケットに使おう」、「これはあの広告に」という風に軽く決めていけた。ただ、その奇妙なところは、今になって……こうしてデジタル・エキシビションを制作し、絵画も展示し、本を制作し、アートワークのリパッケージ作業も終えたところで「ああ〜! そうか、これはこのためだったのか!」みたいに思えた、という。

トム:ああ、あれはかなり奇妙だった。


レディオヘッドとEpic Gamesが共同制作したデジタル展覧会ゲーム「KID A MNESIA EXHIBITION」トレイラー

―『Kid A』リリース時にシニョーラが制作したブリップ群ですが、今回のデジタル・エキシビションの動画イメージに関して、あれらがあなたたちの考え方に作用したことはありましたか?(※Shynolaはイギリスのアート集団でMVも多く手がける。ブリップはスタンリーのアートワークを用いた短いビデオクリップ)

トム:どうだろう? あれは単に、ある特定のシチュエーションに対する反応としてやったことだったし、別によく考えていなかった。あれもまた――(苦笑)ほとんどもう委託でやった仕事、みたいな感じだった。実際、あれはシニョーラだけではなくクリス・ブランも担当したんだっけ。で、「テレビ広告を打ちたい」と言われて、僕も「えっ、テレビ広告?」と。

スタンリー:ビデオも要求されたよ。要するに、MTVの求めるものを作れ、と。

トム:MVだのなんだの、もろもろ。で、アルバムのテレビCMというのは「アルバムをご紹介します」と画面にジャケットが映り、オアシスのアルバムでも、(ブラーの)『Parklife』でもいいけど、謳い文句が続き、曲が30秒流れたらハイおしまい、と。そういうものを見せられ、「我々はこういうものをやりたいんだが」と言われて、こっちはもう「冗談じゃない、ファッキンお断りだ!」と。

スタンリー:そんなわけで僕たちはあの、テレビで流れる20秒の枠を使って――

トム:そう、そちらが宣伝費用を持つというのなら、(「しめしめ」という表情で手をこすりながら)我々の方であなたたちが流してくれるものを作ってさしあげますよ!と。ほんと、そんな感じだった。



当時のブリップをまとめた動画

―トムは一種の共感覚(synesthesia)について話していましたが、その面はあなたがたのコラボぶりにも作動していると思いますか? おふたりのアプローチの中にそうした一種の共感覚の要素がある点に、自覚的でしょうか?

スタンリー:僕はそんなに大層なことだって感覚はないけどね。それってむしろ、ちょっとしたごまかしって感じじゃない? もしも自分が音楽にアートワークを作らせることができるとしたら、こんなに苦労を背負い込み、一所懸命努力する必要もないんだから。僕は本当に、怠け者なんだ。

トム:僕には分からないな……さっきも言ったように、常に葛藤なんだ。今までもずっと葛藤だったし、これからも常にそうだろう。たとえそれが、曲に欠けているひとつのフレーズを見つけようとするだけのことであろうが、あるいはコンポジションの中で正しいフォルムあるいは形状を探そうとすることであろうが、いつだって同じ、常に難しい。物事がフィットしてくれて「嗚呼!」と思える時、あれらの瞬間を待つわけ。でも、そういう瞬間はごく稀だし……

スタンリー:一瞬だけ訪れる救いだ。

トム:そう。だからとにかく、プロセスを楽しむしかない。削り取り、削り取り、削り取り続け、そこで現れる何かを発見するプロセスをね。ひたすらそれに没頭するのに自らを任せる、それをやることができたとしたら、そうするうちにきっと何かが起こる。とにかく、そのオープンな感覚に好きにやらせるってことだし……それがひとつにまとまる時、うん、そこには共感覚のひとつのフォルムがあるんだろうね。これはこれに語りかけるし、そしてそれはこれに反応するぞ、という具合に。

スタンリー:でも、それは珍しいことだよ。大抵はとにかく、一種の空白な、空っぽの咆哮みたいなものだから。誰にとっても、きっとそうだと僕は思う。とにかくトライしている、常に努力しているんだよ、何かを上手く機能させるためにね。で、まあある意味、運はこちらに向いてくれちゃいないわけでさ。

トム:ああ。




レディオヘッド
『Kid A Mnesia』
発売中

[収録内容]
●Disc 1 - Kid A
●Disc 2 - Amnesiac
●Disc 3 - Kid Amnesiae + b-sides

詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12083


「Rolling Stone Japan vol.17」(発行:CCCミュージックラボ)
Photo by Maciej Kucia(SKY-HI+BE:FIRST), Yuri Manabe(RADIOHEAD)

「Rolling Stone Japan vol.17」
※予約受付中

FRONT COVER:SKY-HI+BE:FIRST
BACK COVER:RADIOHEAD

特集:レディオヘッド『KID A MNESIA』20年目の再検証

●『Kid A』『Amnesiac』誕生までの物語
トム・ヨークとスタンリー・ドンウッドが今明かすアートワークの秘密
田中宗一郎・荘子 it・柳樂光隆が語る 『Kid A』と『Amnesiac』が向き合ったもの

発行:CCCミュージックラボ株式会社
発売:カルチュア・エンタテインメント株式会社
発売日:2021年12月25日
価格:1100円(税込)

Rolling Stone Japan
https://rollingstonejapan.com/

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE