「自分の文章が好き」というのがまずある─遠野さんは、小説を書く全てのプロセスを「楽しい」と感じているのですか?遠野:それでいうと、もっとも楽しくないのはやはり、何を書こうか考えているときなんですよね。要するにプロットを考えているとき。小説を書くことは決まっているけど、何を書けばいいか分からない状態が一番嫌だし辛い。何を書くかが決まって、いざ書き始めたらあとは大体楽ですね。
あと、「自分の文章が好き」というのがまずあるんですよ。書きながら自分に驚かされるというか、「こんなことが書けるんだ」と思うことが結構ある。その感覚がなかったら、もしかしたら続いていなかったかもしれないですね。
─自分の文章が好きだという感覚は、小説を描き始めた最初の頃からありました?遠野:ありました。文学賞の一次選考に3回連続で落ちた頃から自分の書くものを「面白えなあ」と思っていました。出版社に原稿が届いていれば受賞するはずだから、不幸な郵便事故が3回重なったのだと思いました。
─それって、ものすごく重要なことだと思います。遠野:そうですね。結果的に「面白えな」と思っている方が元気でいられますからね。ウジウジするのとかあまり好きじゃなくて。あと、ある程度自分に自信を持っていた方が、何事もうまくいくなというふうに思うので。自分を褒めてこれからもやっていきたいです。
─ちなみに落選しまくっていた頃の小説を、今読み返しても同じように「面白えな」と思います?遠野:いや、いま読み返すと「そりゃ落ちるよな」と思いますね。でも、そう思えるってことはそれだけ進化したってことだと思います!
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1991年、神奈川県生まれ。2019年『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『破局』で第163回芥川賞を受賞、「恐ろしいほどに共感」(小川洋子)、「新しい才能」(平野啓一郎)、「手練れに見えない手練れ」(山田詠美)、「村田沙耶香『コンビニ人間』に通じる」(デビッド・ボイド)等の評価を受ける。