音楽における無音の効果的テクニック、シルク・ソニックなどの名曲から鳥居真道が徹底考察



ブレイクは構成上のテクニックとして使われる以外にも、ある特定のパートを目立たせたいときにも使われることも多いです。その具体例としてはVulfpeckの「Cory Wong」が挙げられます。『Live at Madison Square Garden』に収録されたライブバージョンでは、ベースのジョー・ダートやギターのコリー・ウォンが1小節のブレイクでソロを弾くたびに客席から大きな歓声が上がります。そこで盛り上がらないわけにはいきません。すこし冷静になって分析めいたことをいえば、緊張からの開放感から気持ちがぐっと高まるがゆえに声を上げたくなるのだと思われます。曲が終わったときに拍手したくなるのと同様の心理です。心情としてはそんなことはどうでもよく、気持ちが盛り上がったときは声を上げるのが自然なことだと思います。

ここでブレイクによる心の変化を一度整理したいと思います。一連の流れは次のようなものです。①ブレイクの挿入で緊張感を覚える。②緊張から開放されたいという欲求が生じる。③演奏が再開されて緊張が緩和される。④開放感から気持ちが盛り上がる。いささか図式的すぎるとは思いますが、このように説明できると思います。





かねてから無音の緊張感をうまく使っていると感じているイントロがあります。それはステイプル・シンガーズの「I’ll Take You There」です。この曲には元ネタがあり、イントロもそれを踏襲したものとなっています。元ネタはジャマイカのザ・ハリー・J・オールスターズというグループがリリースした「The Liquidator」という曲です。ベースとスネアの「バンッ!」という一撃のあとに訪れる静寂のなかを慎ましいトーンのギターがフレーズを弾き、アンサンブル全体でそれにレスポンスを送るという構成となっています。緊張と弛緩のダイナミクスによって出来た素晴らしいイントロです。



「I’ll Take You There」のイントロの仲間と思っているのが、ビーチ・ボーイズの「Wouldn’t It Be Nice」です。きらきらしたギターのアルペジオの後に登場するスネアの一打がその後に来る歌のアウフタクトをより劇的にしています。スネアがあることにより、ボーカルに対してきたきたきた!という感覚を抱きます。







ブレイクによるボーカルの「きたきたきた!」感を演出した曲としてはブリトニー・スピアーズの「Toxic」があります。歌が入る直前にブレイクが挿入されており、聴いているとハッとします。この曲ではサビの前にも字余り的なギターっぽい音色のブレイクが入っています。サビ前の字余り的なブレイクといえばやはりaikoの「カブトムシ」も忘れがたい一曲です。そしてビートルズの「Don’t Let Me Down」のブレイクはあまりにも有名です。

Rolling Stone Japan 編集部

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