ミツキが語る「音楽から離れたのは、音楽を愛するためだった」

湿地帯を歩きながら

翌日はシェルビー・ボトムズ公園で待ち合わせて、カンバーランド川沿いを6キロほど散歩した。ミツキはまるで地元の人のように馴染んでいて、フォレストグリーンのフリースセーターに黒いバックパックという出で立ちで、私を案内してくれることになった。

在来、侵入種の様々な植物がいる湿地帯を歩きながら、わたしたちは『月の輝く夜に』(「ニコラス・ケイジはあの映画では神様のようだった」)からTikTok(「Z世代にプレッシャーは与えたくないけど、すごい期待してる」)までを語り合った。ミツキは明るく生き生きとしていて、激しく頭を動かしてキツツキの真似をしたり、地面に落ちているピンクのレースの下着を立ち止まって見つめたりしている。時折、彼女の中のアーティストが顔を覗かせる。コウモリが話に上がったとき、私が「醜いけどかわいい」と言うと、彼女は振り返って、眼鏡越しに私をじっと見つめて言った。「美はホラーでしょ?」。

ミツキは、幼少期から音楽に没頭してきた。子どもの頃はスパイス・ガールズを聴き、高校まで合唱団で歌っていた。「中学1年生のとき、短いソロパートのオーディションを受けたのを覚えています」と彼女は振り返る。「先生もみんなも私を見たんです。そのとき『「ああ、これは私にできることなんだ』」と気が付きました」 。自分のさらなる才能を発見したのは、18歳のときに初めてピアノで作曲したときだった。「多くのティーンエイジャーが経験することだと思います」と彼女は言う。「自分には何も目的がないと思いこんでいたとき、この曲を書くことができた。救いでした」。

それでも大学で音楽を追求するほどには自信がなかったミツキは、代わりに映画を専攻する。「純粋に映画を作りたい人たちに囲まれながら、毎日音楽科の練習室に忍び込んでいました」と彼女は言う。「そこで目が覚めたんです」。


Dress, Bodysuit & Pants by Melitta Baumeister. Shoes by Steve Madden. Photo by Josefina Santos for Rolling Stone

2年生の時にマンハッタンのニューヨーク市立大学ハンター校から、北へ1時間のところにあるニューヨーク州立大学パーチェス校に転校し、音楽科に入学。そこで2012年にセルフリリースしたデビュー作『Lush』以降、彼女のすべてのアルバムをプロデュースすることになるパトリック・ハイランドに出会った。「アルバム制作は、私にとって傷つきやすいプロセスなんです。脆弱で醜くあることを自分に許さなければなりませんが、誰の前でもそれができるわけではありません。でも、パトリックとは何度もそれをやってきたから信頼できるんです」。

そんなハイランドは最近、ミツキはアルバムを毎回「2枚ずつ」作っていると指摘している。1枚のアルバムでアイデアを探り、次のアルバムでそれをさらに練り上げる。「『Lush』は大学時代に『なんと! スタジオがある! 他の楽器奏者もいる!』ってなって作ったんです。次の『Retired From Sad, New Career in Business』は、オーケストラに挑戦しつつ、ピアノ曲に磨きをかけました。『Bury Me at Makeout Creek』はとてもDIYで、パンクの影響を受けていて、学校を辞めたこともあってギターが主体となりました。大学にあったリソースを使えず、習い始めたばかりのギターしかなかったんです」。

この時点でミツキは、シェイ・スタジアムやサイレント・バーンといったニューヨークの今はなき会場で、骨太で感情を揺さぶるパフォーマンスをし、熱烈なファンを獲得していた。続くアルバム、2016年の『Puberty 2』では、静かで残酷なほど赤裸々な「I Bet on Losing Dogs」から、恍惚としたパンクの爆発「My Body’s Made of Crushed Little Stars」まで、そのサウンドを完成させ、さらなる名声を得た。「彼女の音楽は本当に直感的なんです」とダッカスは言う。「彼女は自分の中の叫びたい部分とつながっているんです。聞いている人は叫べるような場所に住んでいないかもしれないし、自分の身に起こったことを表現する言葉を持っていないかもしれない。でもミツキはそのための空間を与えてくれるんです」。

続く作品でミツキは自然と逆の方向へと進み、『Be the Cowboy』ではパワーコードとスクリームを脇に追いやり、それを、光沢感のあるシンセ、垢抜けたディスコ調、そして孤独と恋慕を歌った控えめな歌詞に取って替えた。恋い焦がれる先にあるのは、たいていキスだ。「キスするだれかが必要なだけ」(「Nobody」)、「だれかキスして、おかしくなりそう」(「Blue Light」)、「前もキスしたけど、あのときはうまくできなかった」(「Pink in the Night」)。これらの歌詞は、たくさんのミームを生むこととなった。「『これ以上見せられないから、このキスに大きな意味を持たせよう』という昔のハリウッドの流儀」なのだと彼女は言う。「キスは、他のどんな行為よりも親密なものだといつも感じています。たぶん、誰かと最初にする行為の一つだから一番特別なんです」。

Translated by Akira Arisato & Kei Wakabayashi

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