ミツキが語る「音楽から離れたのは、音楽を愛するためだった」

名声は相対的なもの

『Puberty 2』によってミツキはロードの『Melodrama』ツアーのオープニングアクトの座を勝ち取り、別次元の名声とオーディエンスのもとへと押し上げられた。「Working for the Knife」で復帰する直前、彼女のSpotify月間リスナー数は680万人もいた。その成功に感謝しながら、「私はいつも自分が、文字通り世界のなかで100万分の1しかいない幸運な人間だということを念頭に置いて話すようにしています」と彼女は言うが、それが重荷となっていった事実は隠せない。『Be the Cowboy』のツアーを振り返って、「毎日、ただ乗り切ろうと思っていました。ほとんどの時間、心は離れていたんです」と述べている。

この1年、『Laurel Hell』での復帰を計画する中で、ミツキは自分自身の境界線を設定し、自分の限界を把握することに時間を費やした。彼女はチームと協力して、スケジュールに強制的に食事やくつろぐための時間を設けた。(このインタビューの数週間後の12月、彼女のマネジメント会社がセクハラ告発のあったマネージャーを解雇したとビルボードが報じた。ミツキの代理人によると、この人物は「マネージャーの役割を引き継ぎ中」だそうだ。解任されたマネージャー本人はコメントに応じなかった)

「この休みは自分にとって良いものだったと思う」と彼女は言う。「ツアーに出過ぎていたせいで、自分の健康を物理的にないがしろにしていました。健康保険にも入っていませんでした。基本的に20代の間は自分が何者であるかを理解する時間も余裕もなかったんです。自分の体をどうケアしていけばいいのかをしっかり見極めなくてはならない頃合いでした」。



公園を出てUberに乗り、遅い昼食のためイースト・ナッシュビルのヴィーガンレストラン、ワイルド・カウへと向かう。運転手はとてもおしゃべりで、最近ナッシュビルの家賃が上がったため、近くのヘンダーソンビルに引っ越したのだと言う。ミツキは、「いつからここにいるんですか」「交通の便は悪くなっていますか」と質問し会話に興味津々だった。

数分後、運転手は自分が苦闘中のミュージシャンであり、7年間在籍したサザン・ロック・バンドがパンデミックによって解散したことを打ち明けた。彼は、シンガーソングライターになるプランや新しいプロデューサー、ストリーミング業界の落とし穴についてミツキに語って聞かせる。「仕事は何を?」と彼が尋ねる。「私たちも音楽業界ですかね」と彼女は答えた。

ミツキはいまの自分に満足している。一度、自らのキャリアから逃げ出し、そしてそれを立て直すことを選んだ今、自分の成功のレベルとの折り合いがついているようだ。「名声は相対的なものだと思う」と、彼女はついさっき語っていた。「テイラー・スウィフトの名声もあれば、地元のDIYシーンの名声もある。大きくなることで苦労するのは、パフォーマンスとの整合性の保ち方です。8,000人収容の会場で、観客が親密で感動的な体験ができるようにするにはどうすればいいのか。派手な花火といった演出に手を出さないためにはどうすればいいのか。来てくれた人には、私と一緒にある場所に入ってともに何かを経験して、大切なことを体験したという思いをもって帰ってほしいんです」。

レストランに着くと、運転手はインディー・ロック界の大物と話したことに気づかないまま、私たちを降ろした。「頑張って!」。ミツキはドアを閉めながら言った。「バンド、残念でしたね!」。

From Rolling Stone US.




ミツキ
『Laurel Hell』
発売中
詳細:https://bignothing.net/mitski.html

Translated by Akira Arisato & Kei Wakabayashi

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE