アニマル・コレクティヴの歩みを総括 「21世紀最重要バンド」の過去・現在・未来

 
初期(2000〜2005)
果てなき実験とフリーク・フォーク

ポートナーとレノックスのデュオによる『Spirit They’re Gone, Spirit They’ve Vanished』(2000年)、ウェイツを加えたトリオの『Danse Manatee』(2001年)をへて、4人での初めての共同作品となった2003年の『Here Comes the Indian』。アニマル・コレクティヴの名前が世に知れ渡るきっかけとなったのはその翌年、〈Fat Cat〉からリリースされた『Sung Tongs』(2004年)だったが、『Here Comes the Indian』からは、4人が音楽制作を始めた地元ボルチモアでの高校時代に遡るかれらの原風景とともに、活動初期のかれらがホームとした2000年代初頭のニューヨーク/ブルックリンの音楽シーンの空気を感じ取ることができる。

そこに記録されているのは、クラウトロックやシルヴァー・アップルズへの関心、サン・シティ・ガールズやクライマックス・ゴールデン・ツインズに対するシンパシーを手掛かりとしたジャムやエレクトロニクスの実験、ノイズ/ドローンとアコースティックと動物のように喉を鳴らす叫び声とが渾然一体となった不定形のサイケデリック・ミュージックで、骨董品のシンセやエレキ・ギターで組まれたその旺盛なエクスペリメンタリズムは、ブラック・ダイスやギャング・ギャング・ダンスといった当時のかれらが盟友関係を結んでいたブルックリンの先鋭たちとシェアされたものだった。あるいは、今挙げた名前に加えてエクセプターや〈DFA〉のデリア・ゴンザレス&ギャヴィン・ラッソムらの楽曲も収録したコンピレーション盤――“2000年代の『No New York』”とも謳われた『They Keep Me Smiling』(2004年)は、先日アメリカで公開された当時のニューヨーク・シーンのドキュメンタリー映画『Meet Me in the Bathroom』――ストロークスやヤー・ヤー・ヤーズを主役としたロックンロール・リヴァイヴァルの影で息づいていた、かの地のオルタナティヴ/アンダーグラウンドの姿を伝えてくれる。


2001年のライブ映像、『Danse Manatee』収録曲など4曲を演奏。




『Spirit They’re Gone, Spirit They’ve Vanished』、『Danse Manatee』、『Here Comes the Indian』(後述のとおり、2020年『Ark』に改名)の各収録曲




同時代のNYアンダーグラウンド重要作。エクセプター『KA』(2003年)、ブラック・ダイス『Creature Comforts』(2004年)、ギャング・ギャング・ダンス『God’s Money』(2005年)

併せて、キャリアの初期においてかれらの存在を大きく押し上げたのが、2000年代の中頃にかけて高まりを見せた“フリーク・フォーク”と呼ばれるフォーク・ミュージックの新たな気運だった。ポートナーとレノックスが吹き込んだ美しく解放的でミナス感溢れるフォーク作『Sung Tongs』、ディブを加えたトリオで弾き語りした『Campfire Songs』(2003年)はその代表作だが、しかし、当時のシーンの顔役だったデヴェンドラ・バンハートのようなシンガー・ソングライター、あるいはジャッキー・オー・マザー・ファッカーやタワー・レコーディングスなど大所帯のグループとも異なりかれらのサウンドにおいて特徴的だったのは、むしろフォー・テットやフェネスといった同時代の電子音楽の作家と合い通じるようなエレクトロニクスのテクスチャーや音響処理、アンビエント・ミュージックの抽象性だった。実際、この時期のかれらは〈Kompakt〉のコンピレーション盤『Pop Ambient』シリーズや、マイク・インクことウォルフガング・ヴォイトによるミニマル・テクノ・プロジェクトのガス、ジ・オーブ、ベーシック・チャンネルからの影響を明かしていて、レノックスとポートナーに至ってはそれぞれジェーンやテレストリアル・トーンズといった別名義のプロジェクトでミニマルなアンビエント・ミュージックやフィールド・レコーディングスで構成された音源を並行して制作していたりもする。


2003年のライブ映像、当時リリース前の『Sung Tongs』から「Winters Love」を披露。




『Sung Tongs』、『Campfire Songs』、『Prospect Hummer 』の各収録曲




同時代のフリーク・フォーク重要作。上からデヴェンドラ・バンハート『Oh Me Oh My...』(2003年)、ジョアンナ・ニューサム『The Milk - Eyed Mender』(2004年)、ジャッキー・オー・マザー・ファッカー『Flags Of The Sacred Harp』(2005年)

 
 
 
 

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