ブリング・ミー・ザ・ホライズンが語る、依存症からの回復、次世代エモ、セルフケアの大切さ

「エモの定義について、みんなそれぞれ意見が違う」

バンドとその仲間たちが、ハリウッドのウォーク・オブ・フェーム沿いを散歩している。ご機嫌なマット(・ニコルス)は、自分たちの星のプレートの場所を知りたがっている。ジョーダンがマネージャーに向かってジョークをがなり立てる。「アメリカに来たら星を取れるって言ってたよな!」。そこへオリヴァーも加わって、無邪気にこう言った。「まだまだ星を取れるかな?」

一行は夜9時半の就寝時間を過ぎても頑張って起きていた。Avalon Hollywoodのオルタナイベント「エモ・ナイト」で、パパローチのフロントマン、ジャコビー・シャディックスとともにオリヴァーがDJで出演するためだ。盛大なUKオルタナ・ナイト。あちこちでハッパとライトビールの匂いがする。ドレスコードは「プレイボーイの屋敷を訪れるアヴリル・ラヴィーン」なのだろうか、天使の羽やタータンチェック、ボディコンドレスにピンヒールがあふれていた。

初めのうちはステージ上のオリヴァーも、早朝5時のアフターパーティーで素面でいる人間のようだった。それもそのはず、この日は満員御礼。彼は礼儀正しく微笑み、幼い子どもにボールを投げるかのように、時折思い立ったようにマイクに向かってデスコアの叫びをあげた。やがて観客が思い思いに楽しんでいるのを見て、サイクスも肩の力が抜けてきたのか、満面の笑みをこぼし始めた。オリヴァー・サイクスがフィーダー「BuckRogers」をプレイし、自然な流れでSUM 41「Fat Lip」をカラオケ風に口ずさむ中、ジャコビーが逆立てた髪をヘッドバンギングする。客が動画を撮影していなかったら、こんな摩訶不思議な場面が現実のものだとは誰も信じてくれないだろう。

エモ・ナイトはさほどエモに特化していたわけでもなかった。もっとも、エモという言葉自体が今まではあまり意味をなさなくなっている。マット(・キーン)も言うように「エモの定義について、みんなそれぞれ意見が違う。それがこのジャンルらしいところだね」 。ハードコア? アコースティックギター? 悲しげなポップミュージック? ノスタルジックで単一的なTikTokのレンズを通してエモを知ったZ世代により、感情を揺さぶられるものにはほぼすべて、エモという言葉が多用されている。

『Sempiternal』の「Can You Feel My Heart」は、パンデミック中にTikTokで拡散した。Spotifyで1年に2億回もストリーミングされ、目下のところバンド最大のヒット曲となった。一夜にして新たな若者層に拡散し、オリヴァーもアプリ上でバンドの宣伝に駆り出された。




Photo by Lindsey Byrnes

こうした10代の若者にとって、オリヴァー・サイクスは事実上エモ界のゴッドファーザーだ。「『Can You Feel My Heart』は10年前の曲。(Myspace発信エモの)シーンの終わりごろに出た曲だ」と彼は言う。「この10年で極端なエモは消えてしまったが、今の若者によって再確認されている。だから俺たちにもチャンスが回ってきたんだと思うよ、俺たちは最高にエモだからね――それで俺たちは食っているわけだし」

来るEPシリーズ第2弾で目指すのは、「次世代エモ」サウンドの構築。2022年にも新鮮に感じられるよう、エモというジャンルを再構築するのだ。その一方で彼らはインスピレーションを求め、10代の頃にエモやスクリーモにのめり込むきっかけとなったお気に入りの曲も聞いている。テイキング・バック・サンデイ、マイ・ケミカル・ロマンス、ザ・ユーズド、グラスジョー。とくにジョーダンはグラスジョーに思い入れが深く、以前所属していたバンドでは、彼らの2枚目のアルバムにちなんで「Worship and Tribute」というバンド名をつけたほどだ。

2021年にリリースされたEPからのシングルカット第1弾「DiE4u」は、数カ月の実験の末に「次世代エモ」を形成しようとした最初の試みで、純粋なエモの領域をバックに、メロドラマティックで大胆なイメージを全面に押し出したポップロックだ(“本音を言うなら、君が僕の手首を切ってくれるなら/その血で僕は君の名前を心臓に刻もう”)。これでもかと言うほど濃密なコーラスは、「依存症」という主題にふさわしいおぼつかなさを漂わせる。



ブリング・ミー・ザ・ホライズンのアルバムは、どれもオリヴァーの人生の出来事――依存症、リハビリ、愛、離婚――をテーマにしている。次のEPも同様で、テーマは再生。自身の依存症からの回復を深く掘り下げることで、ポスト・パンデミック社会の再生、気候変動と葛藤する世界の再生にも言及したい、というのが彼の狙いだ。彼の意見では、自己嫌悪する人は他人を思いやったり、地球を救おうとしたりしたがらない傾向にある。

「この作品では、自分を大事にしろと伝えたいんだ。俺も自分をとことん嫌ってきた人間だからね」とフロントマンは説明する。「昔はよく、『自分を大事にしろ』なんて言われると吐き気がした――全然自分を大事にしてなかった。賞でもらったトロフィーなんかは全て棚にしまいこんで、目もくれなかった。職業を聞かれても、バンドをやってるとは一言も言わず、アパレル会社やレストランのオーナーだと答えていた。とにかくバンドの話はしたくなかったんだ。今は自分のことが大好きだ。鏡に映る自分の姿を見て、『よくやってるじゃないか』と言えるようになった。『俺はロックスターだ、バンドも上手くっている』とね」

Translated by Akiko Kato

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