ブリング・ミー・ザ・ホライズンが語る、依存症からの回復、次世代エモ、セルフケアの大切さ

オリヴァーとジョーダンの化学反応

彼が今セルフケアを支持しているのも、それが理由だ。オリヴァーをジムでの運動から阻むことはできない。彼のInstagramは昼ごろまで稼働していないし、チェックするのも必要な時だけだ。不必要に働きすぎることもなくなった。今回の作曲合宿でも、そうした境界はしっかり守られている。ある時プッシー・ライオットのナディア・トロコニコヴァが、合宿中に何曲仕上げるつもりかと彼に尋ねたところ、「1曲」という彼の答えを聞いて衝撃を受けていた。確かに約束通り、1曲はできた。その中には“部屋には見知らぬ人間が大勢集まって、救出策をあれこれ模索している”という歌詞が出てくる。会ったこともない人々がひしめく中、ファンがライブでこれを聴いたら、さぞかしすごいことになるだろうな、と彼は言う。この曲を仕上げる代わりに、彼らはスタジオ作業の最終日を利用してさらにアイデアを練るつもりだ。「バンド活動をつまらなくするようなプレッシャーを、一切取り除こうとしてるだけさ」と彼は肩をすくめた。

シリーズの今後のEPには様々なジャンルが盛り込まれる予定だ。3作目はフィッシュお得意のエレクトロ。4作目についてはむやみに期待を煽らないよう口をつぐんでいるが、リーいわく、「ヘヴィ」になりそうだ。シリーズに対するオリヴァーの異様なやる気とも一致する――歴史はいとも簡単に繰り返されるのだ。

オリヴァーがローリングストーンUK誌の撮影をしている間、ジョーダンはスタジオで壁にもたれて座りながら、静かに食事が到着するのを待っていた。やや覇気がないが、おそらく疲れているのだろう。実際のところEP第2弾の制作過程も順調に進み、彼も最終的には今回の合宿に満足していると言う。「出だしが一番面倒なんだ。まっさらな石板が目の前にそびえているような感じ。そりゃあもう恐ろしいよ」と、彼はすっぱり言い切った。シングル第2弾候補となる曲は未定だが、クリスマス休暇を家族と過ごした後、2022年初期の時点ですでにアイデアはてんこ盛りだ。

現時点の制作状況でオリヴァーはのんびりしているが、明らかにジョーダンはプロジェクトの完成という重荷を背負っている。自称「仕事の虫」の彼は、秩序と結果を好む。「僕の生活や気分は、曲の制作状況によって大きく変わるんだ」と本人も認める。「子どものころからずっと、仕事が不安を確実に沈めてくれる手段だった。だがもしかすると、それが悩みの原因だったのかもしれない」


Photo by Lindsey Byrnes

ジョーダンが加入して以来、彼とオリヴァーの間に生まれたゆるぎない化学反応がブリング・ミー・ザ・ホライズンの成功の方程式となった。2人の力関係は断固として揺るがない。オリヴァーが常軌を逸した天才だとしたら、ジョーダンは技巧派の巨匠。どちらか一方が欠けても上手く機能しない(「どの曲もオリヴァーとジョーダンの作品だよ」とマット・ニコルスもにこやかに語った)。

「オリヴァーは常にビジョンを持ったクリエイティブディレクターなんだ」とフィッシュも説明する。「正直なところ、僕は彼のビジョンの実現をサポートしているだけ。時には僕がアイデアを出して、彼からヒントをもらうこともあるけどね」。だからこそ合宿中も他のメンバーがジムに通っている間、ジョーダンはオリヴァーの創造力のヒントになるようなネタを揃えようと、一足早くスタジオで作業していた。感情的にも不安定になるし、上手くいく時もあればいかない時もある。これがジョーダンのやり方だ。「僕の作ったものが上手くいって、それが最終的に曲になった時の気分は最高だよ。逆に、どうにもならなかった時は最悪だけど」

年を重ねるにつれて、オリヴァーのリアクションを予想できる技能も研ぎ澄まされてきたのでは? 「全然だよ」とジョーダンは笑う。「いまだにさっぱりわからない。ただひとつわかるのは、ありきたりなものを出しても彼は絶対にYESと言わないってことだけだ」


Photo by Lindsey Byrnes

Translated by Akiko Kato

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