flumpool 山村隆太が語る、ラブソングを歌う意味

柔らかくなれた理由

―個人的には圧倒的に新しく録り直した方の歌がいいです。変化するって悪いことじゃないんだよっていうのが声からも伝わってきます。

「証」という曲の中身でいうと、何かの証なんです。モノなのか思い出なのか……歳をとったなって思うところもあるんですけど、この曲を出した2011年ってバンドの初期の勢いだとか、青春感だとか、イケ!イケ!みたいなところもバンドの中にあったんですよ。それぞれの守りたいものが少なかったし、ああいう時期にはもう戻れないと思うんです。この「証」っていう曲もやっぱり過去の宝物とか、過去にあった友情や愛情とか、そういうものが離れてしまうけどそれが永遠に残ってくれるといいよねっていう歌なんです。まさに10年経って、あの頃にはもう戻れないけど、今こうやってバンドメンバーで、初めての紅白緊張したなぁとか、あのとき失敗したよなとか、カメラマンさん転けたよなとか……。永遠のカケラじゃないですけど、ずっと青春のままじゃバンドっていられないと思うし、それぞれの距離も離れてきたし、バンドとしての寂しさとか、バンド内の友情が変わってきたところもあるんですよね。でも、あの当時にしかないずっと続くと思っていた青春感があるよねって。振り返ってみたら、寂しさや切なさよりも、そこにあるカケラを大人になるごとにどんどん取り戻すというか、振り返られる。そういうことに喜びを感じられているなって思うんです。当時は出会いと別れ、卒業式のことを書いて、その瞬間のことを書いた歌だったんです。けどあらためて、同窓会でみんなで卒業アルバムを見てるみたいな、ああいう瞬間って感情的になるよねっていう気持ちで今回は歌えたんです。10年経ったから歌える。取り戻せないものもあるけど、でもやっぱりそこにある一カケラでもその証を確認できるのも素敵だよねっていうところで、今の感情があるんですよね。それで昔より、歌い方や気持ちの入れ方が柔らかくなったのかもしれない。そういうのを歌ってて「証」には感じましたね。

―包み込むような柔らかな印象を受けました。

ちょっと丸くなったというか(笑)。でも実際、歌う時の表情次第で伝わるものが違ってくるんですよ。笑顔で歌ったら相手が笑顔になれるエネルギーが発せられるし、泣いてる顔で泣いてる筋肉を使って歌うと泣きたくなるんです。子どもが泣いてるときに、その声を聞いて、泣いてる筋肉が反応してこっちも泣きたくなる感じです。そういうのが音を通して伝わるっていうのがあるんです。で、今回は、朗らかな気持ちを出すのも表情から作る感じのアプローチをしたんです。だから「柔らかくなったね」って言われると、柔らかい顔で歌ってるから柔らかいものが伝わるだなぁって実感します。

―なるほど。

今回再録した「花になれ」はデビュー曲で、当時プロデューサーにめちゃくちゃ言われて(笑)。半ベソかきながら歌ったんです。「ダメ! ダメ!」って怒られながら、実際歌が下手だったしダメだったんですけど、それでも未来の自分を信じて、散ること恐れず花になろうっていう歌なんで、当時はそれはそれでよかったんです。でも今は一周回って、アレンジも自分たちでやって、歌う時の表情も柔らかく歌ってるし、体全体で歌わなきゃなって意識しました。その点は今回のアルバムでは特に意識しましたね。だからそういうのが伝わってるのかなって思います。



―アルバムのラストの入っているタイトルチューン「A Spring Breath」も柔らかな歌が心を優しくしてくれます。この曲を最後に持ってきて、タイトルチューンにした意図は?

今の世の中前向きになれないことばっかりだし、踏み出せない理由を探せばいくらでもあるし。春だからといって、冬のように耐えることしかない世の中で、探せば悪いことしかないように見えます。2022年の春、10年後に思い返したときにこの春にしかできなかったことって言われても、大人になるとそういうことに鈍くなるんですけど、10代の頃、卒業式の日に見た桜の木とか、ああいうものって意識しなくても目に焼き付いてるんですよね。10代の頃のように今一瞬一瞬が見えるかっていうと、やっぱり違うと思うんです。桜なんて、もう咲いて散って終わりでしょみたいな。そこに感情的になるってことがどんどん薄れていくんですけど、歌詞の中に<毎年 巡る季節だけど きっと 同じ花はもう⾒れない>ってあるように、同じように咲く花びらでも、毎年咲くかもしれないけど、一つ一つの色は違うし、枝の形も違うんですよね。そこにちょっとでも気づけるように生きられたらなって。今しかないことが目の前にきっとあるし、それを見過ごしてきた2年間だったとしても、もうちょっと今というものにフォーカスを当てていけたらいいなという、そういう前向きな気持ちになってほしいなって。いろんな変化を感じてもらって、最後に少し前を向くっていう意味でもアルバムの最後にしましたし。A Spring Breathは春の息吹って意味で、最初コーラスで始まるんですけど、ため息のような、深呼吸のような、春の柔らかい風のような、そういうものに包まれながらこの春を穏やかな気持ちで過ごせたらいいなって。聴く人にとっても、僕らにとっても。そういうアルバムになればいいなという願いを込めています。



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