中島みゆき最後の旅「結果オーライ」、瀬尾一三と振り返る

流星 / 中島みゆき

田家:コンサート会場の入口にメモ用紙が置いてあって、お客さんがその紙にここに来るまでの出来事とか、みゆきさんに対しての気持ちを書く。スタッフが集めて、その中から選んだものをみゆきさんに渡してお便りを紹介するコーナーが「流星」を挟んでありました瀬尾さんは、なかなか楽しんだり、感動したりできないとおっしゃってましたけど、お便りコーナーのときはどんな感じなんですか?

瀬尾:1番僕にとっては楽な時間です。

田家:笑える時間になる。

瀬尾:笑えるか笑えないかは内容によるんですけど、長引かないようにちゃんと時間を決めてやっていたので。途中でチーンって鳴らされたりしていて、昔だと時間制限がなくてダラダラ長くなっていたのでこのシステムをもっと早く使えばよかったなと思っていたりしていたんです(笑)。

田家:長くなったときは「長いよな」と思ったりして、ご覧になっていた。

瀬尾:そうそう。でも僕の中で1番無責任な時間です(笑)。

田家:お客さんになれるかもしれない(笑)。

瀬尾:お客さんではないんだけど、ちょっとお客さんの顔が見れる時間ですね。

田家:コンサートツアーというのは「流星」の歌のようなものですよね。

瀬尾:そうですね。彼女はこの曲が結構好きなんです。各ツアーの中に入っていると思うんですけども、結構歌っているんですよね。

田家:歌っていて楽しそうですもんね。

瀬尾:そうです、そうです。あとスピード感というか、情景が見れるのが気に入っているんだと思います。自分でもリハで歌った後「いい曲ね、この曲」って(笑)。「は?」とか思いながら(笑)。自分で言うのも珍しいのでね。

田家:これは1994年のアルバム『LOVE OR NOTHING』の中に入っていた曲で、さっき瀬尾さんがおっしゃったツアーでどれくらい歌ったのかなと調べていたら、1995年にこの曲で始まったツアーがあった。1995年のツアーの大阪フェスで「ファイト!」がアンコールで、ゴスペル風に歌われたんです。このゴスペルの「ファイト!」に感動したことがありました。「え!? 最後にこれをこのアレンジでやるのか!」って。

瀬尾:田家さんは心が揺さぶられたのね。

田家:揺さぶられましたよー。恥ずかしながら、泣いた。

瀬尾:泣いてもいいんです(笑)。タイトルになっちゃった(笑)。

田家:ももクロだ(笑)。その頃のツアーからミュージシャンが島村英二さん、富倉安生さん、小林信吾さん、杉本和世さん。で、島村さん富蔵さん、杉本さんは「夜会」も最初から一緒でしょ?

瀬尾:そうです、そうです。

田家:信吾さんも1994年以降「夜会」も。スタッフも「夜会」のスタッフと重なっている。「夜会」をやっていることの強みはどんなものですか?

瀬尾:やっぱり「夜会」というのはある意味コンサートより高度というか、違う積み重なりがあるわけだから、少なくともコンサートは1曲紹介とかメドレーをやっても2曲とかそのぐらいの感じで繋がっていって。MCの間はミュージシャンも一息つけたり、水を飲んだりできるわけじゃないですか。「夜会」は始まったら、一幕終わるまで何もできないとか、二幕始まったら何もできない作りになっているときがある。それを耐え抜いてきているミュージシャンとスタッフなので、もうそれは話が何しろ早いんです。「これとこれはこうやったら無理だよね」ってなったら、「ん? そうでもないよ」って言って、やってくれるスタッフとミュージシャンなので、優秀な人が常に横にいた方がいいじゃないですか。

田家:しかも「夜会」はステージ上にミュージシャンはいませんもんね。

瀬尾:地下にいます(笑)。

田家:あれはモニター見ながら演奏しているんでしょ?

瀬尾:そうです。全部テレビでモニターを見て、舞台上の動きを見ながらやっています。

田家:「糸」と「ローリング」のタイミングとか全員頭に入っているみたいなことは当たり前なことなんですね。

瀬尾:当たり前です。彼らにとってはピースオブケイクというか、容易いことです。

田家:今回あらためて気づいたんですが、みゆきさんはイヤモニ使ってませんもんね?

瀬尾:そうですね。中島さんはイヤモニ否定派なので、嫌いなんです。一度勧めたことがあるんですけど「嫌です」ってハッキリ言われました。「私は生の音でやりたい」って。

田家:リハーサルのときにみゆきさんがホールの音の鳴りを自分の耳に手を当てたりしながら確かめて、モニターの位置とか全部変えてますもんね。

瀬尾:イヤモニで慣れている方はそれでいいんでしょうけど、彼女はお客さんの反応とか、ホールの鳴りの返り方とか、それによって自分の声の強弱を決めたりするので。ただ自分の声を聴いて、オケを聴いて歌っているだけじゃないんです。そのときの会館の状況、お客さんの状況とか、いろいろな雰囲気はイヤモニをしていると分からないんですよね。所謂直接的にオケとミュージシャンの演奏と自分の声しか返ってこないので、お客さんの空気感が分からない。彼女は空気感を大切にするので、イヤモニは絶対しないって1番最初に言われたので。「ちょっとやってみる?」って言ったけど、「いいえ」って言われて、それから二度と言ってません(笑)。

田家:コンサートは一期一会であるというのはそういうことでもある。そんなことを考えながら、このライヴアルバムをお聴きいただけたらと思います。ツアーの選曲の妙は次の2曲にも表れております。8曲目の「最後の女神」と9曲目「齢寿天任(よわいことぶきそらまか)せ」。

Rolling Stone Japan 編集部

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