サム・ライミ監督が大いに語る、『ドクター・ストレンジMoM』と唯一無二のキャリア

90年代に学んだこと

―あまり知られていませんが、あなたとスタン・リーは90年代初期、『マイティ・ソー』の映画化を温めていましたね。その時はどんな感じでしたか?

ライミ:あの時は最高だった。ソーの物語をベースにストーリーを練って、様々なスタジオにプレゼンして回った。あの当時は(リーが)あまり評価されないことに驚いた。たしか1991年とかそのぐらいの時期で、彼は一介の作家ぐらいにしか扱ってもらえなかった。「なるほど、コミック作家ですか。そりゃすごい」 8つのスタジオを回って、断りの手紙を8回もらって、「これを断るなんてどういう神経だ?」と言ったのを覚えている。「世間の人々は、自分が信じる神にはうるさいんです」と言われて、私もこう言い返した。「そうですね、でもこれは宗教映画じゃありません。雷神の話なんです!」 彼らには理解してもらえなかった。

―ちょうどそのころ、特定のジャンルに縛られる懸念を口にしていますね。そして『シンプル・プラン』のようなジャンルの枠を超えた作品をいくつか手がけました。あなたの中では、映画人生の初期の作品から永久におさらばする、といった思いがあったんでしょうか?

ライミ:特定のジャンルにとらわれていると言ったとしても、文字通りの意味じゃない。私自身、状況が上手くいかなくなった時に仕事にありつけるのがジャンルムービーだとつねに思っているしね。私もジャンルムービーでならストーリーテリングを続けられる。でも確かに、『キャプテン・スーパーマーケット』(1993年)の公開後、記者から「これがあなたの最後の作品になりますか? 昔と同じことを繰り返しているだけのようですから」と言われて、「えっ、本当に?」と思ったことはあった。

その後、「昔と同じことを繰り返したくない。新しいことに挑戦したい」と思った。それで幅を広げて、今までやったことないことに挑戦した。西部劇(1995年の『クイック&デッド』)や犯罪スリラーや、それまでやろうとも思わなかったことは何でもやった。90年代に様々なジャンルの作品を作ったのはそういう理由だ。幅を広げて新しいことを学び、ストーリーテラーとして成長したかったんだ。

―確かに、4本の映画(『クイック&デッド』から2000年の『ザ・ギフト』まで)を立て続けに公開した時期には、多種多様なテクニックに何度も挑戦していたようでした。

ライミ:まさにその通りだ。「カメラに頼って見栄えのする派手な映像を撮るのはやめよう。観客を登場人物に感情移入させよう。レンズだけでなく、人物の視点を通して物語を語る術をもっと学ばなくては」と思った。ビリー・ボブ・ソーントン、ビル・パクストン、ブリジット・フォンダ、ケイト・ブランシェット、ケヴィン・コスナー、ジーン・ハックマン。名優たちからたくさん学ばせてもらったよ。

『スパイダーマン』第1作の監督に名乗り出るころには、そんな風に仕事をして10年が経っていた――ありがたいことだ、『スパイダーマン』作品や『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』では役者の演出から視覚効果に至るまで、映画製作のあらゆる知識を総動員したからね。この業界で経験することができた知識を、隅から隅まで活用した。

―総体的にみて、最新作の制作過程でもっとも大変だった点は何ですか?

ライミ:一番大変だったのは期日だ。ストーリーも脚本も揃わず……まだ途中で、どんな結末になるかわからなかった。マイケルが頑張ってスケジュールを2~3日前倒しして、次のページはPCのプリンタから出てくるという具合だった。大変だよ、すべてつじつまが合うように、全編を通してテーマが一貫していなくてはいけないんだから。作品をすべて把握していないと、効率的に仕事をするのは難しくなる。

―別世界の登場人物が――FOX配給のマーベル映画のキャラクターかもしれませんが――突然スクリーンに現れたとします。観客は大喜びですが、悪目立ちしてストーリーから浮いてしまうような気もします。その辺りの匙加減はいかがでしょう?

ライミ:そういう状況になったら、新顔と出会った登場人物に素直にリアクションさせるのがベストな時もある。仮に別世界の有名なキャラクターが『マルチバース・オブ・マッドネス』に登場したら、ドクター・ストレンジは相手が何者かもわからないだろう。相手を吹っ飛ばしておしまい、ということになるかもしれない。時として、素直な反応は大爆笑を誘うこともあれば、観客を惹きつけることもある。「おい、あの男を知らないのか? 嘘だろ?!」という状態にさせるわけだ。頭の回転の鈍い人間が映画の中でジェームズ・ボンドと初めて出会って、「あんたは俺が出すマティーニを黙って飲め。わかったか?」「お前、ジェームズ・ボンドを知らないのか?!」という具合だよ。観客にとっては、それはそれで別の面白みがある。

―この映画にも絡んでくると思いますが、「ダークホールド」なる書物の存在をどう解釈しましたか? 『死霊のはらわた』シリーズに出てくる書物「ネクロノミコン」の親戚のような存在ともいえると思いますが。

ライミ:「ダークホールド」については『ワンダヴィジョン』やコミックで知っていたが、この映画とどう関係するかは話せない。すまないね。

―いずれにせよ、「ネクロノミコン」と少し類似性がある点は面白いですよね。

ライミ:そうだね、私も笑いのネタにさせてもらった。本作にも登場していれば面白かっただろうね。

Translated by Akiko Kato

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