サム・ライミ監督が大いに語る、『ドクター・ストレンジMoM』と唯一無二のキャリア

スパイダーマンを再び手がける可能性

―楽しい話題から、あまり楽しくない話題へと移りましょう。『マルチバース・オブ・マッドネス』を手がけるにあたって、『スパイダーマン』三部作から学んだ教訓は何でしたか?

ライミ:おっ、いい質問だ。自分の信念に従う(こと)だろうな。最後にもう少し手を加えておけば、(『スパイダーマン3』も)もう少しマシになっていたと思う。

―ハリウッドという世界でそんなことはできますか? そんなことは可能ですか?

ライミ:ああ。だが、非常に困難な場合も多々ある。『スパイダーマン3』がプリプロダクションの段階に入ったころ、ソニーもハッと気づいたんだと思う、「待て待て、この作品は我々の財産だ。大きな稼ぎ頭だ。好き放題やらせておくわけにはいかない、ちゃんと手綱を握っておかないと」とね。そういうことも関係していたと思う。


左からアヴィ・アラッド、トビー・マグワイア、サム・ライミ 2004年『スパイダーマン2』の撮影現場にて
©Columbia Pictures/Sony Pictures/Everett Collection


―『ノー・ウェイ・ホーム』のおかげで、トビー・マグワイア演じるスパイダーマンもマーベル・マルチバースの一員として戻ってきました。長い年月を経て、スパイダーマン作品を再び手がける可能性はありますか?

ライミ:素晴らしいストーリーがあれば、可能性はなくもない……キャラクターに対する私の情熱は少しも薄らいでいないからね。断念するとすれば、当時と同じ理由だろう。「トビーがやりたがるだろうか? 感情の移り変わりはあるだろうか? キャラクターが最大の局面を迎えるシーンはあるか? 作品のテーマに見合う悪党はいるだろうか?」 答えなくてはならない問いがたくさんある。そうした問いに答えが出れば、喜んでやるだろう。

―あなたの『スパイダーマン』が成功したのは、あれがピーター・パーカーの物語だったという理由もあります。純真さ、人間らしさ、そして甘いラブストーリー。もっともこういった要素は、必ずしもあなたに求められていたわけではありませんでしたが。

ライミ:私がスタン・リーのコミック版『スパイダーマン』に魅了されたのも、まさにそこなんだ。ピーター・パーカーにはつねに進行中のラブストーリーがある。実際のところ、彼はシリーズを通して2人の異なる女性に心を奪われている。だが私も子供のころは、「恋の行方が気になるから、次の『スパイダーマン』のコミックは絶対手に入れなくちゃ」と思ったものだ。恥ずかしくて、学校の男友達には言わなかったけれどね。

―キルスティン・ダンストの話では、宙づりキスシーンの予習として、有名な映画のキスシーンを集めたスクラップブックを彼女にプレゼントしたそうですね。どういう意図があったんですか?

ライミ:この映画であのシーンが重要だと彼女に知ってほしかっただけだ。きちんと描けば人々の記憶に長く残るシーンもある、ということを何とか伝えたかった。彼女に心の準備をしてもらいたかった。きっと彼女はこのシーンで素晴らしい演技をするだろう、キルスティン・ダンストの魅力をあの瞬間に閉じ込めたい、という私の思いを知ってもらいたかった。話し合いをすると彼女はすっかり呑み込んで、魅力を存分に発揮してくれた。トビーもだ。2人は本当に特別なシーンを作ってくれた。

―あのシーンにはある種のエロティシズムがありますが、その後のスーパーヒーロー映画では踏襲されていません。ましてや、あなたが描いたような繊細さには及びません。盛り込むのは厄介ではありますが、スーパーヒーロー映画にも内在している要素です。引き出す気になるかどうかですね。

ライミ:そうだね。スパイダーマンのコミックにもセクシーなキャラクターが実にたくさんいる。何しろ全員、ゴムやポリウレタンのストレッチスーツを着ているんだから。コミックではそれが常識だ。ある意味、10代の若者にとっては、恋のお相手探しみたいなところもある。

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE