moonriders11年振りアルバムを鈴木慶一、佐藤優介、澤部渡とともに語る



田家:アルバムの3曲目、「S.A.D」。作詞が慶一さんで、作曲が武川さん、夏秋さんと、佐藤優介さんであります。

佐藤:この曲では、武川さんから一緒に曲を作らないかと言って頂き、くじらさん(武川)の家に夏秋さんと一緒に行きまして……。

鈴木:でもあいつの家、録音する場所あるの?

佐藤:もう本当に、防音とか何もないですけど。

田家:ご自分が思春期の頃にカバーしていたバンドの曲を一緒に作るというのは、どういう感覚ですか?

佐藤:もちろん憧れもあるんですけど、どこかでアンタッチャブルな部分も実はあって、最初、そこのせめぎ合いがあったんですけど、でもやっぱり他の誰かがやるくらいならと。

田家:あ、他のやつにやらせたくないと。身も蓋もないことを聞いてしまいますけど(笑)、どこに一番惹かれてたんですか?

佐藤:それを説明しづらいところがmoonridersのいいところというか。そこの複数性ですかね。皆さんが曲を作るし、慶一さんもリーダーではないっていう。誰か一人絶対的なリーダーがいたら、その人の言うことだけ聞いていればいいじゃないですか。でもライダーズはそれとは全然違うバンドですよね。

鈴木:フロントに立つ人がいないってことかな。要するに、我々の音楽には、リーダーがいてそれで作っていくというヒエラルキーはないということですよ。並列に全員が並んでいて、どんな意見を言ってもいい。それが却下される場合もあるし、採用される場合もあるということです。

田家:なるほど。これはあの三週目のお話にもなるんですけど、76年当時“鈴木慶一とmoonriders”というバンド名だったのがすごく居心地が悪かったと。

鈴木:もうめちゃくちゃ悪い(笑)。

田家:でもそういう意味では、このアルバムは、これこそmoonridersと言える作り方になっているということですよね。

鈴木:作り方はね。だから結果的にはサウンドもそうなっているんですよ。それが今終わって確認できたなというアルバムです。

田家:なるほど。作っている時はそこまでは……。

鈴木:作っている時は本当にハイテンションになっているんでね。色々な事を同時に考えているでしょ、不安だし、プレッシャーはあるし、11年ぶりだし、かしぶちくんはいないし、ということを考えると、クオリティーを上げることしか考えない。それが何なのかというのを考えて提案すると、うるせぇなお前みたいな顔をされる時もあると(笑)。でも私も必死ですからね。良いものを作ろうと。

田家:その一端を担ったのが、お二人(佐藤 優介、澤部 渡)だったということですね。

鈴木:二人によって本当にクオリティーが上がったんです。

田家:なるほどねぇ。ホーンセクションが3人と、女性ボーカル、xiangyuさんが入っています。このxiangyuさんっていう方は?

鈴木:xiangyuさんとは、「ほとぼりメルトサウンズ」という映画で一週間ロケをやりまして。私が生まれて初めて長く出演した映画の主演がxiangyuさんだったんですよ。彼女は音楽もやってらしゃって、もの凄い子だなと思ってね。xiangyuさんの曲は、ラップと歌の割と中間のような面白いサウンドなんですよ。声も面白いしね。くじら(武川)が第二回目の声変わりをしたんですよ(笑)。ちょっと手術をして、声が低くなったのと、ハスキーになってしまって、この声を生かすにはどんな感じがいいかなぁと思っていたところで、xiangyuさんの曲を聴き、くじらの今の声を生かすには二人でユニゾンで歌うととてもいいだろうな、と思いました。

田家:あ〜なるほど。

鈴木:色々な曲でも低い声で語っていましてね。「岸辺のダンス」でも語ってますけどね。それを生かしたいのだけど、聞こえにくいところも当然出てくる。そこで女性のボーカルを入れることによって、更にブラッシュアップされるなと思って来て頂いたんですよ。

田家:「S.A.D」という言葉、テーマは、曲が上がってから考えられたんですか?

鈴木:そうです。このアルバムは珍しいことに、鈴木博文さんが最初に演説をかましたのですよ。曲と詩は一緒に出そう!と。私がかつてソロで曽我部恵一さんにプロデュースしてもらった時に、曽我部さんに「歌詞無いんですか?」って言われたことがあって(笑)。「後でよく無い?」って言ったら、「いや、今作って欲しい」ってことでその場で作ったけどね。

澤部:すごい(笑)!

鈴木:ソングライターっていうのは、本来そうなのだなと思います。長年そう思ってきましたが、最初のうちやっただけで、その後ずっとサボってました(笑)。だから21世紀に入ってからは、歌詞と曲はなるべく同時に。で、この曲は最初、曲だけ出来上がってきたんだよね。

佐藤:はい、そうですね。

鈴木:それで私に詩を書いてくれという、武川の意向で。この詩を書く時は、かしぶちくんだったら何使うかなぁって考えてね。リキュールとか私使わないですから。

田家:パフューム。

鈴木:そう、そういうのはね、かしぶちくんっぽくしてみたいなと思って。突然女が出てきて、靴を貸せって言ったり。言ってみれば、非常に不条理な映画のような。これはかしぶちくんを意識しました。

Rolling Stone Japan 編集部

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