私立恵比寿中学、10周年ツアーファイナルで見せた「今が最高」の理由

驚きの選曲

最近、自分のなかで存在感が増しているのは小林歌穂。彼女の性格がそのまま出ているような柔らかく優しい歌声は、それだけで楽曲の世界観を拡張する。いつの頃からか、そんな彼女の個性の強さ、つまり優しさが増しているように感じるのだ。この日は特に、柏木ひなたからバトンを受け取って曲を締めた「さよなら秘密基地」や小久保とデュエットした「約束」でそれが顕著だった。彼女の歌声はなんというか、ジブリ的なのである。そんな小林と同系統の声の持ち主が小久保。「ハッピーエンドとそれから」では彼女の魅力がフルに発揮されていた。







悪性リンパ腫が寛解し、昨年8か月ぶりに復帰した安本彩花もすごい。パフォーマンス中の彼女は常に発光しているように見える。ステージに立つ喜び、自らを表現する楽しさを心の底から噛み締めている今の彼女はまさにエビ中の太陽。パフォーマンスの安定感もこれまで以上で、グループを支える柱のひとつとしてこれまで以上に欠かせない存在になっている。


©スターダストプロモーション

MCでは、桜木が「ひなちゃんとの春ツアーが最初で最後ということで泣きそうです」と言うと、彼女の顔を覗き込んだ柏木ひなたが「泣いてないな……」と返す。他のメンバーから「あざとーい!」と桜木が責められるなか、「かわいいから許す!」と柏木。こんな軽いやりとりからも9人の関係性がうかがえる。

その後は「シュガーグレーズ」「きゅるん」「トキメキ的週末論」と最新アルバム『私立恵比寿中学』の収録曲が続く。この日はツアーファイナルということで、新作の収録曲をすべて披露したのだが、すでにどの曲もオリジナル音源よりクオリティが高い。公演を重ねてきたことで完成度が上がったということだ。







再びMCを挟んだあとは、6人時代の前作『playlist』から、「I’ll be here」「愛のレンタル」を披露。「I’ll be here」では柏木がアイドルシーン最強のボーカルで1番をすべてひとりで歌いきり、観客を魅了。「愛のレンタル」はオープニングのサビをアカペラで聴かせるという特別アレンジ。これぞ実力派グループの為せる技。まだ喉が本調子ではない真山だったが、巧みなファルセットと表現力と経験で自身のメイン曲を魅せた。





客席がざわついたのは次の曲の壮大なオーケストライントロ。現体制では初披露となる「未確認中学生X」である。新しめの曲が続いてきたなかでこのトンチキ曲の投入は完全に意表を突かれた。歌唱力の高さや楽曲のクオリティの高さに注目が集まりがちな近年のエビ中だが、かつてはトンチキ名曲の宝庫だった。その頃の自分たちを今も捨てていないというアティチュードは、楽曲の内容とは真逆に感動的であった。曲が終わったあとも客席がざわついていたのはそれだけ驚きの選曲だったということ。



高低差でズッコケそうになったのは、「未確認中学生X」に続く曲が「春の嵐」だったから。曲の振り幅よ。「愛のレンタル」と同様、これも真山のメイン曲。喉の調子を考えれば無理をする必要はなかった。でも、彼女は正面からこの曲の歌唱と向き合い、魂を込めた。そんな彼女の姿は<エビ中の心臓>と表現したくなるぐらい堂々としたものだった。



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