セレーナ・ゴメス「真実」を語る 心の病や難病を抱え苦しみもがいた日々

Photo by Amanda Charchian for Rolling Stone

心の病と命を脅かす難病、タブロイド紙からの集中攻撃を経験したセレーナ・ゴメスが、かつてないほどオープンに自分の身に起きたことを、米ローリングストーン誌のカバーストーリーで打ち明けた。

セレーナ・ゴメスは、たくさんの“荷物”を抱えている。この表現は文面に限らず、比喩的にも正しいと彼女は言った。その言葉に耳を傾ける私自身、ゴメスにインタビューをするためにスーツケースを引きずりながら空港の保安検査場を通過し、カリフォルニアの青々とした丘をのぼり、水面がキラキラと輝くスイミングプールの脇を通り、ロサンゼルスにあるゴメスの自宅の豪華な衣装室兼メイク室にたどり着いた。床には花柄のラグが敷かれ、開け放たれた窓からは中庭が見渡せる。スーツケースを置いた私は、もしかしたら少し汗をかいていたかもしれない。それにもかかわらず、ゴメスは私を優しく抱きしめると、部屋を出て足早に廊下を歩いていった。足を止めて、若い女性にエアコンの温度調整を指示する。部屋に戻ると、ゴメスは革張りの白いラウンジチェアに腰を下ろしておしゃべりをはじめた。私が到着する少し前までアサイーボウルを食べていた彼女は、口の周りが紫色に染まっていることに気づいたと話す。部屋全体に自然なオーラが漂う。結局のところ、私たちは人間なのだ。汗もかけば、口もとを食べ物で汚すこともある。時には、いろんなものを背負い込む。

こうした人間らしさを温かく受け入れる懐の広さは、昔からゴメスのトレードマークだと言えるかもしれない。近年の彼女のアルバムには、「パーソナル」にはじまり、「胸を打つほど真に迫る誠実さ」で終わるような、幅広い感情が網羅されている。これらの作品は、ぐちゃぐちゃの感情とテイクアウトした中華料理、真剣な自己批判の化学反応のようなものから生まれたとゴメスは語る。「ある日スタジオに入ると、プロデューサーのみんなが『元気?』って声を掛けてくれた。『彼氏がほしい』って言うと『それなら、いまの気持ちを曲にしたら?』って提案されて、それもアリかもって思った。だからこの曲は、彼氏がほしい気持ちを歌った曲なの」と、ゴメスは2020年にリリースされた粒揃いの秀作『Rare』の収録曲の中でも傑出した存在感を放つ「Boyfriend」について語った。このアルバムは、自身の感情に折り合いをつけるプロセスを進行形で描くと同時に、リスナーを夢中にさせるようなポップなフックがそこここに散りばめられている。

歌手だけでなく、ゴメスには女優としての顔もある。どんなプロジェクトであろうと、彼女には最高のパフォーマンスを発揮する才能があるのだ。破天荒なパリピ女子を描いた『スプリング・ブレイカーズ』(2013)に若干の“まともさ”をもたらした一方で、ウォール街が舞台の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2015)では本人役で登場して「シンセティックCDO」(訳注:証券化商品のひとつ)の意味を解説。ミステリー・コメディドラマ『マーダーズ・イン・ビルディング』(2021)では共演者のスティーブ・マーティンとマーティン・ショートのかたわらで皮肉屋のイマドキの若い女性を演じた。「セレーナのコミカルでありながらも抑えられた演技と、頭のおかしなふたりの老人を相手にしているような冷めたキャラクターは、いまの時代感覚にぴったりです」とマーティン・ショートはセレーナを絶賛した。「なんと言っても、セレーナのInstagramアカウントには3億6000万人のフォロワーがいるんです。それは、誰もが彼女の“本物感”に気づいているからです。多くのスーパースターと違って彼女は、『私はあなたと同じくらい弱くて脆い存在』と言える勇気を持っています。セレーナの強みは、その偽りのなさにあるのです」

2020年8月に米HBO Maxにてスタートした、ゴメスがホストを務める料理番組『Selena + Chef』においても、彼女はどこまでも自然体だった。虹色の包丁で危うく指を切り落としそうになったり、「オエッ」と言いながらヌルヌルのタコを切ったり、恐怖の表情を浮かべながら炎に包まれた謎の物体をオーブンから取り出したりと、ありのままの姿で視聴者を楽しませてくれた。ありのままの姿といえば、ゴメスがプロデュースする美容ブランドRare Beautyは、「インナービューティーを慈しむ」というモットーを掲げる数少ないブランドのひとつだ。Rare Beautyの素晴らしさは、そのインクルーシビティ(展開しているファンデーションのシェード数は、なんと48色)とチャリティとしての側面にある。実際、ブランドの収益の一部は、しかるべきメンタルヘルスサービスを受けられないコミュニティを支援するための取り組みに寄付される。ゴメス本人も、メンタルヘルスという問題を抱えている。そのひとつがループス腎炎——自己免疫疾患のひとつである全身性エリテマトーデス(SLE)に合併して生じる腎臓病だ。ゴメスは2017年に腎臓移植手術を受けたが、移植された腎臓が手術後に予期せぬ動きし、動脈を傷つけた。医師たちが駆けつけて6時間にわたる緊急手術が行われ、一命をとりとめることができた。それに加えて、メディアによって大々的に取り上げられたジャスティン・ビーバーやザ・ウィークエンドとの破局や双極性障害(訳注:気分が高まる躁状態と気分が落ち込むうつ状態が繰り返しあらわれる精神疾患)と診断されたこと——ゴメスは、マイリー・サイラスがSNSでライブ配信している番組『Bright Minded: Live with Miley!』にゲスト出演した際に双極性障害であることを明かした——をはじめ、ゴメスはたくさんの荷物を抱えている。その一方で彼女は、さまざまなメディアに登場しては、根も歯もない噂や憶測に対する嫌悪感について包み隠さず語り、優しさと節度の大切さを訴えた。SNSの弊害を糾弾しながらも、彼女のフォロワーは凄まじいスピードで増え続けた。ゴメスほど名声の象徴に激しく抗いながらも自らの矛盾を抱え、数多くのステージで涙をこらえてきた著名人を私は知らない(「泣き顔が可愛くないから」と言うゴメス本人の言葉は有名だが、もちろんそれは事実ではない)。

Translated by Shoko Natori

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